インターネットヒーロー、召喚される
夜の公園。
そこに俺――堂島颯太は一人で座っていた。
アへ顔パーカーを来た34歳男性無職童貞、ついでに100キロオーバーのわがままボディ。
人は俺をこう呼ぶ、「変態」と。
「あの、インターネットヒーローさんですか……?」
そんな俺に話しかけてくる人がいた。
中学生一年生くらいの可愛らしい男の子だ。
「いかにも」
俺は鷹揚に頷いた。
気分は司令官だ。
すると、少年は笑顔を綻ばせて隣に座った。
「それで、相談とはなにかね?」
「えっと、実は僕付き合っている人がいるんですけど」
「別れなさい」
うらやまけしからん。
「え?」
「いや、なんでもない。それで?」
「あ、はい。それで、一週間前に喧嘩しちゃって、それっきり気まずくて話せないんです……。どうしたらいいんでしょうか?」
「ふむ」
俺は腕を組んだ。
思春期にありがちな相談だ。
しかし、本人は真剣に悩んでいる。
ここは、34年のニート人生で育んだ黄金の知恵を授けよう。
俺はぴんと指を立てて見せた。
「女はカラスだ。光り物を渡しておけば機嫌は治る」
「宝石ですか……? でも、僕そんなお金――」
「いいや、そんなものよりもっといいやつさ」
俺は立ち上がって、そこらへんに落ちている石を拾った。
ただの石ではない。黒くてピカピカしているやつだ。
それを少年の手に乗せる。
「石?」
「そうだ、石だ」
「あの、これのどこが――」
「ばかもん! お前は本質を全く見えていない!」
「え、ええ!?」
少年が驚きを露わにしているが、俺は畳み掛けるように言葉を紡ぐ。
「いいか、女の子が宝石を貰って喜ぶのは、物を貰って喜んでいるんじゃない!それに込められた思いに喜んでいるんだ!」
「思い……」
「そうだ」
俺は少年の肩に手を置いた。
「君の彼女を思う意志をその石に込めれば、どんな宝石にも勝る贈り物になる」
「なるほど、ありがとうございます……! 早速、明日プレゼントしてみます!」
頭を下げた少年は、走って去って行った。
たぶん、明日振られるな。
これも経験だ。悪い大人に騙されたというな。
童貞の前で彼女自慢するからこうなる。
社会は厳しいのだ。
「てか、石に意志を込めろってなんだ。おやじギャグかって俺もおやじじゃん」
衝撃の事実に慄いていると、肩を叩かれた。
「お兄さん、ちょっといいかな」
振り向いてみれば、二人のナイスガイなお巡りさんが笑顔で立っていた。
そして、俺は連行されたのだった。
「ったく、酷い目にあったぜ。俺は悩める若人の導いただけなのに……」
警察署を後にした俺は腕を回して、肩の凝りを解す。
日本の警察は優秀だ。一時間みっちり説教されて、それを体で教えられた。もう、前には戻れないかもしれない。ビクンビクン
「さて、仕事はーっと」
俺はスマホを取り出して、SNSアプリを立ち上げた。
アカウント名はインターネットヒーロー。
普段はそこで仕事を募集している。
仕事内容はいじめっ子の情報拡散から飲んだくれのジジイの説教相手まで多種多様で、お値段一律1000円。安い、早い、適当が売りの何でも屋だ。
見てみると、新しいDMが来ていた。
「お、一件依頼来てんじゃん。えーっと、なになに? 召喚獣を探しています。長期的な契約を希望。待遇は日当銀貨一枚、三食昼寝付き。依頼を受ける場合は、下記のURLを押してください。依頼人、エリザ・ユノアース。はぁ? なんだこれ。中二病か?」
非常に痛々しい。
要約すると、長期間使える都合のいいパシリが欲しいです。ってとこか?
めんどくせぇ、非常にめんどくさい匂いがする。
「ま、面白そうだからいっか」
俺は迷うことなく、URLを押した。
あ、ワンクリック詐欺じゃないよな?
そう思った瞬間、スマホが光り輝き、足元に魔法陣のようなものが展開された。
「な、なんだこれ!? これが最新のワンクリック詐欺なのか!?」
その言葉と俺のダイナマイトボディは光に攫われ、それが収まった頃には、その場所に俺の姿はなかった。