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異世界の愛を金で買え!  作者: 野村里志
第一章 猫の花嫁
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お金の稼ぎ方

 




「なあ、サゾー。一つ聞いて良いか?」


 犬族の集落、現地の住人に用意してもらったもてなしの場でベルフは隣に座る佐三に尋ねる。


「なんだ?」

「どうしてこの地域で商売をしようと思ったんだ?ここいらは山間だから賊も出やすい。それに私が言うのも何だが、人間と獣人族がうまく手を組んだ例は余り多くない。多くの場合、どちらかが奴隷のようになる」

「らしいな」

「らしいなってお前……」


 佐三はベルフの話を聞きながら、そんなことかと食べ物を口に入れる。正直あまり好みの味ではなかった。


「まあ獣人族とトラブルって話は正直知らなかった。俺は生まれ(異世界)の関係もあってか昔からの因縁みたいな感情は全く持ってなかった。だから手を組む相手に人種は関係なかった。これが一つ目の理由」

「うむ」

「それに賊の問題っていうのはあくまでこの地域が貧しかったからだ。それを解消してやれば多少改善されるって思惑はあった」


 ベルフはふむふむと頷いている。この男(?)は存外バカではない。佐三は共に行動するようになって以来そう思っている。


「加えてお前の存在も大きい。いくら犬族の賊が出たとしてもお前には勝てない。だから交渉もしやすかった」

「ふむ。当然だな。もっと褒めて良いぞ」


 ベルフは軽く尻尾を振っている。人間姿の時でも尻尾は出てしまうようだ。


「まあそんなとこだな」


 佐三はそう言って、出された干し肉の料理を口に運ぶ。この世界に来てから自分の元いた世界のありがたみが随所に感じられていた。


「だがまだ疑問があるぞ、サゾー」

「……何だ?」


 ベルフは肉をむしゃむしゃと豪快に頬張りながら聞く。


「そういった問題が解決されたからと言って別にここで商売をする必要はないだろう?問題がなくったって、もっと簡単なところで始めれば良い」

「お前なかなか頭が働くじゃないか」


 佐三が感心した様子を見てベルフは誇らしげに胸を張る。こうした素直さはどこか動物らしくて好感が持てた。


「お前、金の稼ぎ方って知ってるか?」

「昔言ってた、『自分じゃなくて他人に働かせろ』ってやつか?」

「まあそれも間違いじゃない。だがその先の話だ」


 ベルフは尻尾を軽く振り、興味津々に話を聞いている。


「お前はどんな商売が金を稼げると思う?」


 佐三はベルフに問いかける。ベルフは少し考えてから「汚い仕事」とぼそりと答えた。


「何でそう思う?」

「小汚い連中……例えば殺し屋、奴隷商、それから地方を牛耳っている領主まがいの商人達は随分と金をもっている」


 ベルフは自分の境遇も相まってか、知らず知らずのうちに「グルルル」という威嚇混じりの声が漏れている。佐三はそれを「どうどう」と落ち着けながら話を続ける。


「当たらずとも遠からずだ」

「何っ!?」


 ベルフは驚いた顔をする。


「お前まさか、この村の人々を奴隷に……」

「馬鹿言うな。そんな考えはない」


 立ち上がり、威嚇し始めるベルフを佐三は再度座らせ落ち着かせる。


「いいかベルフ。儲かる事業の条件はな、「パワー」をもつことだ」

「『パワー』?暴力って事か?」

「いや、相手より優位に立つって事だ」


 佐三は干し肉を持ちながら説明する。


「いいか、ベルフ。もしお前が飢えて死にそうなとき、もしくは俺からしか食料を買えないとき、俺はこの干し肉をいくらで売ると思う?」

「それは……高い値段だ」

「その通り」


 佐三は頷いて続ける。


「逆にお前が空腹じゃないとき、もしくは他の人間からも干し肉が買えるときはどうだ?高い金を払って買うか?」

「買わない」

「そうだ。この力関係こそが『パワー』だ」


 ベルフは成る程と頷き、干し肉を見つめる。佐三は手に持っていた干し肉をベルフに食べさせて話を続ける。


「つまり、だ。汚い連中のやっていることも基本的な原理は同じだ。奴隷商や殺しは普通に人間がなかなかできることじゃない。それだけに値段も上がる。領主まがいの商人は別の商人を追い出すことで自分の所からしかものが買えないようにしているのさ」



 ベルフは干し肉を噛み、しばらく考えた後、何かに思い至ったようであった。


「じゃあこの村の商売も……」

「その通り。この辺りの道は賊が出る。だけど俺らの従業員には手が出せない。それは何故か?お前という存在がにらみをきかしているからだ。だけど他の商人はここで商売をやるにはそれなりの護衛がいる。それに人間を使っているのなら余計に獣人に狙われる。だからこの辺りの資源は俺たちの企業が単独で町に卸せるって寸法だ。これでわかったろ?」


 ベルフは目を丸くしながら佐三を見る。佐三の話からはいつも感心させられてばかりであった。


「面白そうな話をしておりますな」


 佐三が説明を終えるとどこからともなく長老がやってくる。


「長老、歓迎感謝します」

「いえいえ、こちらこそ。それでどんな話を?この老人にも聞かせてください」

「なーに、長老様に聞かせるほどの話でもございません」

「はて、私は仲間はずれですかな」

「いえいえ、滅相もない」


 二人は笑いながら酒を酌み交わす。ベルフはこうした社交辞令は少し苦手であった。


「ところでサゾー様」

「何でしょう?」

「最近東の方でごたごたがあるのをご存じで?」

「お聞かせ願いましょう」


 長老は少しばかり目を開いて、声を落として続ける。


「東の土地、丁度ここから犬族の足で三日ほど走ったところでしょうか。猫族の町があります」

「『町』ですか?」

「左様。獣人の集落でありながら非常に栄えております。そこをいくらかの小領主達が言いがかりをつけて占領しようとしているそうです」

「また、どうして?」

「そこの猫族は非常に毛並みが良く、綺麗な女性が多くいると聞きます。とりわけリーダーは女性で、それはとても美しいとか。故に小領主の目的は自ら楽しむか、売るためにねらっているのかと」

「成る程。だが私にそのような趣味はないぞ」


(何を話しているのだ?この者たちは?)


 ベルフは二人の意図が掴めなかった。佐三はわざとらしく言ってみせ、長老の方も十分分かっていながらもったいぶって話していた。


「その地は南方の山脈とこの北方の山脈から流れる川の合流地点にあります。そしてその川はそのまま東へ流れ、港がある町へと続きます」

「ほう」

「今はあまり使われておりませんが、商人が川を利用するようになれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なんだ、長老。しっかり話を聞いているじゃないか」

「いえいえ、滅相もない」


 二人は少しした沈黙の後、「フハハハハ」と笑い出した。ベルフからしてみれば汚い商人達と同様の悪巧みをした笑いである。


(やれやれ、やっぱり悪人面じゃないか)


 ベルフはそんな風に思いながら佐三を見る。しかしその面構えは小汚い連中とは全く異なる堂々とした顔つきであった。


「では明朝経つとしよう。ベルフ、明日は寝坊するなよ」


 そう言う佐三にベルフは「はいはい」と答えてもう一切れ干し肉を食べる。おそらく急ぎでいくのであろう。しばらくまたひもじい思いをしそうであった。


「次の目的地は東だ。噂に聞く花嫁、頂きにいくとしよう」


 佐三は高らかに宣言した。











読んでいただきありがとうございます。

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