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異世界の愛を金で買え!  作者: 野村里志
第一章 猫の花嫁
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エージェンシーと正直者





「あ、サゾーさん。お久しぶりです」

「よう。仕事は順調か」

「おかげさまで。今では従業員も三十人にまで増えました」


 ギルドの申請を終えて、佐三とベルフは資金を貯めるのに使っていた北方の土地にまで来ていた。彼らは北方の山地の村と都市を繋ぐ流通の事業を展開しており、今では現地の部下達に任せてしまえる程度には安定していた。


「ベルフさんも、相変わらず美しい毛並みで」

「お、人間の姿でも分かるか。流石は犬族だ」

「いえいえ、誰にだって分かりますよ」


 北方の山地には犬の特徴をもった人種が多く住んでいる。そう言った人種はこの世界の言語で普通に“犬族”と呼ばれているらしい。猫なら猫族、鹿なら鹿族なのだろう。何故狼だけ人狼なのかは分からないが。


(しかしこの世界のイヌとオオカミは仲が良いのか?よく分からないが。まあそもそもどこか分からないこの地で犬とか狼とかいることがそもそも不思議ではあるが)


 佐三は深くは考えないことにした。


「しかしサゾーさんのおかげで助かりました。今ではどの村も冬の食事に困らない程度には稼ぐことができています」

「お前達が勤勉に働くおかげだ。この調子で頑張ってくれ」

「了解です」


 男は後ろの尻尾はバタバタと振りながら、敬礼する。人間の見た目で尻尾を付けているのはどうも不思議な感覚であるが、嘘がつけないのでそれはそれで良かった。


「じゃあ、長老のところに挨拶しに行こう。行くぞ、ベルフ」

「わかった」


 二人は犬族の従業員に挨拶して、この事業を半ば委任しているこの地域のまとめ役のところに赴いた。




「はい。これが預かっていたお金です」

「ありがとうございます長老。お金を使わずに保持するのもなかなか大変だったでしょう。不届き者はいませんでしたか?」

「ほっほっほ。儂が生きている内には、信義に背いたことはさせませんよ」


 犬族の老人、この地域の長は笑いながら答える。佐三は事業を委任している一方で、収益の一部を受け取っていた。そしてその金は長老にお願いして取ってもらっている。


「しかし結構あるな。若い連中の中にもこの金に手を出したくなる奴が出てきそうなもんだ。よく取っておいてくれました」

「いえいえ、佐三様のおかげでここいらの連中が飢えなくて済むようになったんです。それに給金もしっかりもらっているんですから、これ以上の欲をかくことは許されません」


 長老は礼儀正しくお辞儀をした。


 事業を委任すること自体はさほど難しいことではない。しかし委任することは同時にリスクが発生する。いわゆるエージェンシースラックの問題である。


 誰かに任せたとき、彼は自分の利益を優先して、依頼主の利益を無視してしまう場合があるのである。


(だからこそ、この信用できる長老がまとめ役として存在してくれたのはありがたい)


 佐三はこの長老にお金の管理を任せることができたため、遠い都市のギルドに足を運び申請することができたのである。



「ところで佐三様」


 長老が質問する。


「これからはどうなさるのですかな?」

「ああ、なんだ。そんなことか」


 長老は尻尾を軽く振りながら質問してくる。どうやら佐三の次の行動について興味があるようであった。


「なあに、簡単なことさ」


 佐三は前置きをして答える。


「嫁をもらいに行く」

「…………」


 その言葉を聞いて長老はしばらく沈黙する。そしてすこししてから「それは良い考えでこざいますね」と返した。


 しかし佐三は気付いていた。長老の尻尾の動きが止まり、だらりと落ちていることを。


(正直なのも考えものだな)



 「流石にお前には無理だ」


長老の尻尾にそう言われている気がした。






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