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異世界の愛を金で買え!  作者: 野村里志
第零章 人狼の相棒
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見えない敵

 





「いや、しかし見事なくらい自然だらけだ。村にいた頃を思い出すな」

「……フン」


 佐三は深呼吸をしながら隣に座る人狼に話しかける。


 王都からいくらか北にある村、そこで二人は夜を明かすべく民宿に泊まっていた。


「しかし田舎の物価というものは感覚を狂わされる。まさか一泊銀貨2枚とは」


 佐三は銀貨を指で弾き、上に飛ばして遊びながら話す。少しずつ暖かくもなり、民宿の夜もそれなりに過ごせる気温になっていた。


「一体どういう風の吹き回しだ?」


 人狼が尋ねる。


「どういうって?」

「どうして急に俺を村にまで返そうっていう気になった?お前にとっては何の得もないだろう?」


 人狼の質問に対して佐三が答える。


「まあビジネスチャンスかなと」

「びじ……何だ?」

「商売のタネを探しに行くってことだ。お前も一応恩義は感じているんだろ?俺を村の連中に紹介してくれ。それでいい」

「何故そんな面倒なことを……」


 人狼はそう言って渋る動作を見せる。しかし佐三はそれに対して特に何を言うこともなかった。彼は命を救ってもらった恩義をたかだか十日程度の労働で返したつもりになどならない。佐三はそんな心理をよく理解していた。


 それにこの人狼が例え契約を結ばなくとも、それ以外にも利用する道はある。例えば佐三は財産を防衛することに加え、財産を作る手段も探していた。あの酒場で働いていても、いくらか貯蓄は増えるものの大した額にはならない。かといって王都や主要都市はギルドが独占しており、商売をすることすら適わない。


 そこで佐三が目を付けたのはギルドが相手をしない市場の開拓であった。その市場は目下二つ考えられた。


 一つ目は小規模の村。これは以前佐三が滞在していた村でやっていた。そしてもう一つが獣人に対する商売である。


 無理にギルドとぶつかる必要はない。必ずしも同じ土俵で戦う必要がないのがビジネスだ。佐三はそう考えていた。


(にしてもこいつが人狼の村でトップを張っていたのは驚いた。これに気付けたのはラッキーだった。コネも作りやすそうだ)


 佐三は銀貨をいじりながら考える。ビジネスのアイデアは至る所に転がっている。考えはいついかなる時もとめてはいけない。


「……ん?」


 佐三は急に立ち上がり、周囲を警戒しだした人狼を見つめる。人狼は軽くうなり声をあげながら臨戦態勢に入っていた。


「どうした?」

「囲まれている。人間だ」


 人狼がそう言うや佐三は即座に部屋の明かりを消す。手早く銀貨をしまい、荷物をまとめた。


「数は?」

「多いな。10人以上はいる」

「やれるか?」

「お前を助ける義理もないが……反撃しないのも腹立たしい」


 突如ドアが蹴破られる。男が三人押し入ってきたが、即座に人狼の蹴りによって意識を刈り取られた。


「とんでもない蹴りだな。骨が砕けてるんじゃないか?」

「ナイフで刺され、ハンマーで殴られるよりはマシだ。移動するぞ、付いてこい」

「了解」


 佐三は人狼に付いていく形で民宿を飛び出した。
















「いやはや、しかしこんなにも力の差があるとは」


 佐三は倒れてうずくまる人間達を見ながら小さく呟いた。


 人狼一人に対し、相手方は10人以上いた。しかも夜の奇襲作戦。いくらでもうまくやる余地はあった。


 しかしそんなアドバンテージをもろともしないのが獣人というものなのだろう。村には基本的に明かりはなく、夜の村は信じられないほどに暗い。にもかかわらずこの人狼はどこに誰がいるのか正確に分かるようでバッタバッタと薙ぎ倒していった。


 佐三は意識を失った男達から武器と金銭を抜き取っていく。中には銃を持っているものもいた。佐三はなんて大がかりな作戦なんだと思うと同時に、この世界にも銃はあるのかと感心していた、


 少しして全員片付いたのか4人ほど抱えながら人狼が帰ってきた。


「これで全員だ。臭いと音で確認した」

「そりゃまた便利なこって」

「これはお前の知り合いか?恨みを買っているとは思っていたが」

「おい、そいつは失礼だぞ。……しかしいずれにせよここまでされる覚えはないな」


 そんな会話をしていると倒れている男の内の一人が起き上がる。


「まだ意識があったか」


 人狼はその男に近づき、拳を振り上げる。しかしそれに佐三は待ったをかけた。


「ちょっと聞きたいことがある。……誰か!誰か来てくれ!」


 佐三が呼びかけると、騒ぎで起きた住人が駆けつけてくる。


「あんた……大丈夫なのかい?」

「人が倒れているぞ!」

「すまないが縄を持ってきてくれ。大丈夫、一人を除いて皆動ける状態じゃない」


 佐三はそう言って意識のある男に向き直る。


「さて、お話しようか」


 佐三はにこっと笑いながら語りかけた。














「終わったよ」


 少しした頃、佐三は周りを警戒している人狼に話しかけた。横では縄で縛られた男達が並んでいる。先程までわめいていたようだが、何人かの顔に痣があるところを見ると人狼に分からせられたみたいだ。


「どうだった?」

「まずこの村とは無関係だ。縄も貸してくれているし、第一顔見知りが誰もいないみたいだった」

「ふむ」


 人狼が頷く。


「それと俺とも」

「……どういうことだ?」

「そのままの意味だ。狙われたのがお前だということだよ」


 佐三は呆れたように言うが、人狼はまるで心当たりがないようであった。そもそも人狼なんてものを狙わないのが道理であることは、かの奴隷商から聞いている。リスクが大きい割に大した額で売れもしない。だからこの人狼に心当たりがないのも不思議ではないのだ。


 ではもし狙うとしたら。それは一体誰なのか。佐三は人狼を観察しながら考える。


(どうもきな臭い。銃ももっているし、大がかりだ。だから人狼を狙ってのことなのは間違いない。だが何故こいつなんだ?人狼の森が近くにあり、いくらでも獲物は選べるというのに。奴隷商はありえない。こいつを狙うぐらいなら、こいつに大した値打ちがないことも知っているはずだ。何せ王都であれだけのことをしていたくらいなんだから)


 佐三は銀貨を取り出し、再び手の中で転がす。金や利益といった合理的なものではない。私怨や権力争いといった感情的な臭いがしていた。


(まだ想像の域を出ないが……どうにもきな臭いな)


 佐三は人狼の方に視線を向ける。トップであることは名誉であり、力である。そこから得られる恩恵は計り知れない。この人狼は長としてそれを享受してきたはずだ。


 しかし世の中にメリットしかないものなど存在しない。光がある以上、影はあるのだ。トップであるということは、同時にリスクを背負うことにもなる。佐三は経験からよく理解していた。


「やれやれ、見えない敵っていうのは恐ろしいな」


 佐三は小さく呟いた。






読んでいただきありがとうございます。

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