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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

牧師と悪魔の少女

これは前に自分が投稿した“女魔王と勇者の子孫”の逆パターンとして考えました。


その日、村の牧師を務めているローランが説教を終えて教会までの道を歩いていると木の根元に何か動くものを見つけ、近づいてみた。そこには身体を1枚のぼろ布で覆っている子供が座っていた。


「おやおや、こんなところにか弱い子供が……どうしたのですか?」


「……わたしに……話しかけないで」


「そうはいきませんね。流石に目の前で辛そうな子供を見捨てることを神はお許しにならないでしょう」


「……わたしは……人じゃない」


「人じゃない……と申しますと?」


「これ」


とその子供は自身が被っていた布を取った。


「おや……それは悪魔の角ですか」


その少女は人間の頭には本来生えていない2本の角が生えており、この世界では2本の角は悪魔の証として忌み嫌われていた。


「……これのせいでみんなから“いたんしゃ”って石投げられた」


「子供相手に随分酷いことをするのですね……」


ローランは角があるとはいえ、子供相手にするものではないと思い憤りを隠せなかった。彼は聖職者のため本来は一番悪魔など邪悪なものを忌み嫌う立場だが、彼にはただの弱っている子供にしか見えなかった。


「だから……わたしに……かまわないで」


「さっきも言いましたがそうはいきません。どんな子供であろうと子供を見捨てるなど神がお許しになりません。どこも行く場所がないのでしたら」


「わたしにかまうと……おにいさんも……」


「神は異端の者であっても恵みを施してくださります。

さぁ私の家にきなさい。暖かいごはんと寝る場所を用意しましょう」


と言いローランは目の前の少女に手を差し出した。


「……いいの?」


その子供は伺うように尋ねるとローランは微笑みながら


「えぇ、構いませんよ」


「じゃあいく……」


「ようこそ」


とローレンはその少女の手を握り、自分の教会に足を向けるのであった。




それからというものローランは拾った少女をアリシアと名付けて、村人から隠すように育てた。彼自身はアリシアの見た目に偏見を持たないが村人が自分と同じように思うとは思わないからである。そのため普段アリシアは礼拝所の先にあるローレンの私室の屋根裏で寝泊まりをして、家の中でも角を隠すように髪の毛ごと布で覆い、彼女が村人に見つからないように気を使った。幸いにもアリシア自身は外に出たがらない性格だったため村人から姿を隠すのはそこまで苦労はしなかった。


「ではアリシア、今日は言葉のお勉強をしましょうか」


「わかった……なんてよむの?」


「そうですね、これは……」


拾われた当初アリシアは言葉こそ話せるが読み書きが全く出来きなかったので礼拝や説教が無いときは教会の蔵書を使いながら彼女に読み書きを教えた。初めてアリシアに出会った時の姿から今まで彼女がまともな環境に置かれていなかったことは想像に容易いが、ローレンはこれからの彼女の人生が幸せに送れるように自分に出来ることを精一杯しようと決めていた。


アリシアが成長していくにつれ、魔法が使えたり、動物達と意思疎通が出来たりと明らかに普通の人間では出来ない事をしていったがローレンはそれでも尚、アリシアに目一杯の愛情を持って育てた。


(どうかこの子の人生に神のご加護がありますように……今まで辛い人生を送ってきた彼女にはこれからは幸せな人生を送ってほしい)


ローレンはただ、そう思いながらアリシアを育てた。





ローレンがアリシアを拾ってから数年……ついに国にアリシアの存在がバレた。

大勢の人々がこちらに来るのが見えたローレンは急いでアリシアを連れて森の小穴に向かった。この森は猛獣や怪物が現れると村では噂になっており、村人たちがあまりこっちに来ないのをローレンは知っていたのである。


そして小穴にたどり着いたローレンはその穴にアリシアを入れると、周りを葉っぱや枝で覆い付近に同化するようにした。


「いいですかアリシア、ここからでてはいけませんよ?」


「ぼ、牧師様はどうするの……?」


「私は牧師ですから交渉でどうにかします。この国で牧師はいきなり殺されることはございませんから」


「そうなの……?」


この国では聖職者の立場は結構高いが、それは神の声を授ける代行者という立場だからなのだが、神の敵をかくまったとなればいくら聖職者のローレンであってもただでは済まない。だがそれをローレンはアリシアを心配させないためにあえて隠した。


「えぇ、だから貴方は自身の事だけを考えなさい。

ーーどんな事があっても穴から出てはいけませんよ」


「う、うん……」


「貴方はいい子です。どんな酷い事をされてもそれを他人にしてはいけませんよ?」


「わ、分かった……」


「よろしい、では私がこの場をなんとかしてきますね」


「どれぐらいで戻ってくるの……?」


「そうですね……大体3日ぐらいで帰ってくる予定です

ーーでは、行ってきますね」


「か、帰ってくるよね……?」


「えぇ、それは勿論。心配しないでください」


と言うとローレンは森の外に出ていくのであった。






アリシアはローレンの言われた通り何があってもその小穴から出なかった。

幸いにも森の動物達とアリシアは意思疎通が出来たのと、動物たちがアリシアに対して優しく木の実や飲み水を持ってきたので飲食の面では困らなかったが、自分を庇ったローレンの事が心配だった。


(牧師様……大丈夫かな……)


もうローレンが約束した3日が過ぎたがそれでも尚ローレンは自分を迎えに来ない。

アリシアは彼の身に何かあったのではと思い、心配で心配でどうにかなってしまいそうであった。


(牧師様に何かあったら私……怖いよ……)


怯えた表情をするアリシアを見て動物達も心配そうに寄り添ってくる。


「貴方達は優しいね……まるで牧師様みたい……大丈夫、大丈夫、牧師様は必ず帰ってくる」


そう自分に言い聞かせてローレンを待つことにするのであった。

だが待てど待てども彼はアリシアを迎えに来なかった。


(牧師様……怖いよ……1人にしないで……またあの頃に戻りたくない……)


アリシアにとってローレンはかけがえのない存在であり、彼を失ったらまた拾われる前の独りぼっちに戻ってしまうのがなによりも恐れた。

そんな時、森の鷲がアリシアの近くに降り立った。


「どうしたの……えっ?」


鷲が言うには村の方から煙が立っているとのこと。

それを聞いた瞬間、アリシアは嫌な予感がした。


(村の方を見に行こう……少しなら大丈夫だよね……これぐらいなら牧師様も許してくれるよね?)


と思ったアリシアは隠れながら近くの村に向かうのであった。





「嘘……」


村に着いたアリシアが見たものそれは……村の中心で何かが焼かれたような場所だった。

そこには長い棒がかろうじて原型を留めて、付近には焦げ臭いにおいが充満しておりここで何かが焼かれたことを物語っていた。

そしてアリシアを最も絶望させたのはその棒の根元付近にローレンのいつも身に着けていたものに似ている十字架が半分焦げている状態で落ちていたのである。


「な、なんで……」


落ちている十字架を拾うとそれは確かにいつも近くで見ていたローレンの十字架であった。


「あぁ……あぁぁ……!!」


「ーーいたぞ!! 悪魔がいたぞ!!」


アリシアが目の前の状況に絶望していると、村人達がアリシアの周りに集まってきた。


「悪魔め……!!」


「なんて汚らわしい角……!!」


「ろ、ローレンが悪魔をかくまっていたのは事実だったのか……」


「そんな奴に俺らは騙されていたのか……許せねぇ!!」


口々にアリシアやローレンを非難する言葉が出てくるが、アリシアはローレンが殺されたというショックでその場から動けなくなっていた。


「--ここにいたか悪魔よ」


その声の主はローレンの火あぶりの刑に立ち会いしていた司教であった。

普段なら司教が田舎の辺鄙な村に来ることはないが、悪魔をかくまった牧師の死刑ということもあり司教が呼ばれて立ち会ったのである。


「ねぇなんで……? なんで牧師様を……殺したの……?」


アリシアがローレンの形見の十字架を握りながら尋ねると司教は蔑むように吐き捨てた。


「ふん、あやつなど牧師ではない。悪魔に魂を売った妖術師よ。

大人しく悪魔の所在を明かせば死なずに済んだものも……愚かな奴め」


「牧師様は何も悪い事してないのに……? ただ死にそうだった私を拾って育ててくれただけなのに……?」


「悪魔をかくまったというだけで罪よ!! よりによって神に仕えるものがそのような事を行うとは……全く以て嘆かわしい……!!」


その時、アリシアの何かが切れた気がした。

アリシアは身体の中からとてつもない力が湧き上がってくるのを感じた。

それは自分で抑えられるものではなく、勝手に湧き上がってくるものだがアリシア自身その力が湧き上がってくるのを抑えるつもりはなく、逆に自分の力にしようとしていた。


「貴様……一体何を……!!」


「許さない……!! 許さない……!! 牧師様をこのような目に合わしたお前らを許しはしない……!!」


怒りのまま身体から溢れたエネルギーは球体になり、アリシアの身を包んだ。

そしてすぐに球体が割れ、現れたのは……


「--ふぅ、力がみなぎりますね……今まで我慢していたのが馬鹿馬鹿しくなりますね……」


「お、お前は……ほ、本当に悪魔なのか……」


「えぇ、貴方方が血眼になって探していた悪魔ですが何か?」


そこには先ほどまでそこには少女ではなく、禍々しい角を生やした美女であった。綺麗な金髪は深い闇を思わせるような黒髪に変化している。


「さて、どなたから倒してあげましょうか……? あぁ心配しないでください、この村にいる全員誰も逃がしませんよ。牧師様を殺したのですからそれぐらい当たり前でしょう」


と言うと司教を始めとして周囲の人間は一気に怯えた様子になった。


「悪魔如きがえらーー」


「--お黙りなさい」


とアリシアは偉そうな態度をとった兵士の1人を魔法で消した。

その様子を見た司教達は一気に怯えた様子になる。


「はぁ……弱いくせに粋がるからこの様になるのです。

ーーでは、牧師様が受けた痛みを貴方方にも味わせてあげましょう」


この日、一つの村が跡形もなく滅んだ。



ローレンが死に、アリシアが覚醒してから数年……


「ーーアリシア様、ご報告申し上げます」


「なんですか」


「王国側の戦力はほぼ半減。国内では降伏側と抗戦側に分かれて対立しているそうです」


「そうですか、では作戦はそのまま継続させてください」


1つの村を司教ごと滅ぼしたあと、アリシアは人間に恨みを持っている魔物たちを率いて人間側に宣戦布告をした。人間側は近隣諸国と同盟を結び、アリシアが率いる軍勢に対抗しようとしたのだがアリシア自身の戦闘力とカリスマ性によって徐々に勢力を追い詰められている。


「はっ、承知いたしました。

ーー1つ宜しいでしょうか?」


「何ですか?」


「その十字架はいつまで持っているのでしょうか? それは我らにとって敵を象徴する物ーー」


「--私が何を身につけようと私の勝手でしょう。それとも貴方は私に意見出来るほどの立場になられたのでしょうか?」


「い、いぇ……失礼致しました」


「口を慎みなさい。

ーー今から、私は少し休みます。少しの間指揮を任せます、いいですね?」


「はっ」



アリシアは本拠地から転移魔法を使って向かった場所は、かつてローレンとアリシアが一緒に住んでいた教会だった。入ってみると住んでいたローレンが死んでから誰も管理するものがいなくなったため、建物のあちこちにガタが来ている。ローレンが綺麗好きというのもあって彼がいた頃はこまめに修理修繕をしていたため綺麗だったがその面影は感じられない。


「そろそろ限界ですかね……この場所も」


そう呟くとアリシアは昔ローレンがよく座っていた椅子に座った。

椅子に座り、目を閉じると彼との思い出が蘇ってくる。


“ぼくしさま~ごほんよんで~~!!”


“えぇいいですよ、読みましょうか”


“ひざのうえにのってもいい?”


“はいはい、どうぞ”




“いいですかアリシア、ここからでてはいけませんよ?”


“ぼ、牧師様はどうするの……?”




楽しい思い出も一番辛かった思い出も全て思い出せる。アリシアにとってこの場所でこの椅子に座ってローレンとの楽しい思い出に浸るのが唯一心が休まる時であった。


(牧師様、ごめんね……私、牧師様の約束破っちゃったよ。牧師様が殺されたって分かった瞬間、どうしても我慢出来なかった)


そう思いながらもアリシアは止まる事が出来ない。

ーー何故ならローレンと一緒にいた頃の彼女とは根本的に変わってしまったからだ。

ローレンといた頃の純粋な彼女はそこになく、そこにいるのは負の感情に囚われた悪魔なのだから。


「さて、そろそろ戻って作戦を考えますか。

ーー牧師様を殺した人間を滅ぼすため……の策を」


とアリシアは椅子から立ち、再び戦場に向かうのであった。

いかがだったでしょうか。

今回は自分にしては珍しくバットエンドを書いてみました。

楽しんでいただけたら幸いです。

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