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28.婚約者からの手紙

『親愛なる シルヴァ様


 いつもお手紙ありがとうございます。


 こちらオルスタはだいぶ秋めいて参りましたが、そちらはいかがですか? 


 最近は魔法と乗馬のレッスンを新しく始め、充実した日々を送っています。

 魔法のレッスンでは、まだ「喜、怒、哀、楽」どの属性かわからない状態です。これって珍しいことのようですね。魔法を教えてくれるポーリは、いろいろ情報収集をしてくれていますが、まだまだ分かりそうにありません。もしかしたら、原因解明のため、冬の間ブルスターナに行くかもしれないです。


 乗馬のレッスンは、最初はどうなることかと思いましたが、だいぶ馬にも慣れてきました。レッスンが終わったあと、ひどい筋肉痛になりますが、体力づくりにはもってこいです。


 爽やかな夏の終わりを満喫されますことをお祈り申し上げます。


エリナ・アイゼンテール


 P.S. 月に何度もお手紙をいただきますけれど、お仕事も忙しいと思いますので、回数を減らしていただいて結構ですよ』


□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇


『親愛なる 美しい俺の婚約者殿


 首都ブルスターナはまだまだ暑い。涼しいオルスタが恋しいくらいだ。ずっと断られているが、そろそろ会いに行っても良いだろうか。


 魔法のレッスンの件、ようやく始めたんだな。いろいろ問題があるようだが、アイゼンテール家の血脈をもってすれば、必ずや乗り越えられるだろう。

 それよりも、ポーリというのは男か? なぜいきなり呼び捨てなんだ? それから、ブルスターナに来るのであれば、必ず事前に俺に知らせるように。俺の知らないうちに、ブルスターナに来て、帰るなんて非情なことはしないでくれよ。


 それから、乗馬は楽しいが、くれぐれも無理しないでほしい。落馬して大怪我することもあるんだ。馬は大人しくて従順な馬を選ぶように。いつか一緒に遠乗りに行こう。


 今は元気そうだが、季節の変わり目は体調を崩しやすい。くれぐれも身体を冷やさないように。隣国産の珍しい身体を温めるような茶葉が手に入ったんだ。一緒に送るから、飲んでみてくれ。もし口にあうようであれば、また送ろう。


 暑さも峠を越えたが、そろそろ夏の疲れが出るころだ。くれぐれも風邪なんてひかないように。


シルヴァ・ニーアマン


 P.S. 返信はしなくていいから手紙くらい受け取ってくれ、頼むよ』


□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇


(この手紙、口調を変えればほぼお母さんとかお父さんからの手紙と一緒じゃない)


 夕餉の後、年上の婚約者であるシルヴァから届けられた手紙を読んで、私はため息をついた。

 どうもここ最近の手紙は、近状報告というより、体調の確認や私の身体のことを案じている内容のほうが多いのだ。得体のしれない薬や茶葉が丁寧に同封されている時もある。

 

「ねえ、シルヴァ様は私が倒れてからすっかり過保護になったと思わない?」

「そりゃあ、そうですよ。エリナ様はシルヴァ様にとってたった一人の大切な婚約者なんですから」


 シルヴァが送ってきた茶葉を丁寧に淹れながら、ゾーイがゆったりと微笑む。ミミィも大真面目にコクコクと頷く。


「シルヴァ様は、お嬢様の意識がない時も、来る日も来る日もずっとそばにいらっしゃいましたから、多少過保護になるのも当然です。私、あの件でシルヴァ様のこと見直しました!」

「ああ、それに関しては私もミミィと同意見ですよ。シルヴァ様と初めてお会いした時は、軽薄な男性とだと思いましたけれど、どうやら私の勘違いだったみたいで」


 ミミィとゾーイが顔を見合わせて口元に手を当てて微笑みあう。

 婚約パーティーの日までは、シルヴァと私が二人きりになるのも渋い顔をしたほどだったのに、どうやら春の一件以来、二人のシルヴァへの印象は180度変わったらしい。今ではシルヴァから手紙が来るたびに大騒ぎし、早く返信するように催促してくるほどだ。


「そう言われても、私、シルヴァ様がお見舞いに来ているときはほとんど意識がなかったからなぁ……。気付いたら、こんなに過保護になっているんだもの」

「まあ! 今までの行動からは想像がつかないかもしれませんが、シルヴァ様は、本当に献身的でしたのよ」

「そうなんだ……」


 いまいち釈然としないので、私はあいまいな返事をして頷いた。私にとってシルヴァからの扱いの変化は違和感しかない。私のシルヴァのイメージは、未だにとにかく女の人にモテる、油断ならないキザな青年、といったところだ。

 それがいきなりゾーイやミミィ並みに過保護になっていたのだから、私の驚きも当然の気もする。

 

(でも、結局はあの婚約者(シルヴァ・ニーアマン)もアイゼンテール家の権力が狙いなわけだし、私にコロッと死なれたら困るわよね)


 彼の利害のことを考えれば、私の体調のことをここまで過剰に心配するのも当然のことなのかもしれない。

 私はため息をつきながら、ゾーイから差し出されたティーカップに口をつけた。ゾーイが丁寧に淹れてくれたシルヴァから送られてきたお茶は、身体によさそうな味で、なんというか、端的に言えば苦くて渋い。

 一緒に飲んだゾーイとミミィも何とも言えない顔をしている。


「うーーん、このお茶、美味しくはないわね」

「でも、本当に体によさそうです。身体もポカポカしてきましたし、時々は飲みましょうね」

「……シルヴァ様から送られてきた、ほかの茶葉ってまだまだあるわよね」

「ええ、ありますね……」

「正直な話、どのお茶も身体によさそうだけどおいしくはないのよねぇ……」


 ゾーイは私の言葉に複雑な顔をする。このままだと、このままだとシルヴァから送られてくる茶葉でストックルームの棚が溢れてしまう。飲みきれずに無下に捨ててしまうのももったいない。

 私は、当たり障りなく茶葉を送ってくるのはもうやめるよう伝えるべく、送り返す手紙の内容を考え始めた。

◇追記 誤字報告ありがとうございました!訂正いたしました

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