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1.始まりはいつだって突然

「エリナ様、エリナ様……」


 私は自分の身体が優しく揺さぶられているのに気がついた。まぶたがとろんと重い。


(ううん、もう少し、眠りたいかも……)


 そう思ったものの、ふいに優しく揺さぶっていた手が私を軽々と持ち上げた。


(……ヒッ!?)


 突然の浮遊感に喉がヒュッとなる。


「あら、ごめんなさい、エリナ様。驚かせてしまったわ」


 私を抱きかかえた人物は、軽やかに私を片手で抱くと、優しく私の頭を撫でた。ふわりと石鹸のような、懐かしくて優しい匂いが鼻孔をくすぐる。


(人に頭を撫でられるの、久しぶりかも……)


 そう思うのもつかの間、シャっと音がして、急に世界が明るくなった。私を抱いている人物が慣れた手つきでカーテンを開けたのだ。

 目の前に白く、明るい世界が広がった。


「えっ……」


 完全に見慣れない世界に私は言葉を失った。ガラス越しに見えるのは、尖った塔、それから凍えるような銀色の世界。空はどんよりとした灰色で、分厚い雲の先に山脈が見える。


(どこ、ここ……?)


 明らかに日本ではないことは確かだった。

 呆然とする私に、私を抱き上げている人物は朗らかに笑う。


「まだ寝ぼけていらっしゃるかしら?お昼寝の時間は程々にしないと、夜にまた寝られなくなってしまいますわ」

「え、えええ……!?」

「あら、エリナ様どういたしました?」


 訝しげに、妙齢の女性が私の顔を覗く。見慣れない顔なのに、私はこの人をよく知っている不思議な感覚に襲われた。確か、この人の名前はゾーイ、私の乳母だ。そしてゾーイの大きな目にうつっている腕の中の私は、銀髪の幼い女の子。


(この子の名前は、エリナ・アイゼンテール)


 私はハッとした。


「ほ、本当に異世界に来てるーッ!?」

「ホホホ、何をおっしゃってるんですか、エリナ様。まだ寝ぼけていらっしゃるの?昨日はあまり眠れなかったかしら」

「あ、いや……」

「お夕飯の支度がそろそろできるはずですから、お御髪整えましょうね。今日は大公もいらっしゃいますのよ」


 ゾーイは鷹揚に笑うと、パニックになる私を大きな窓の近くの豪華な鏡面台の前に座らせた。

 鏡には、お人形のような女の子が映っている。


(この子が、エリナ・アイゼンテール)


 まじまじと鏡面を見つめると、やはり銀髪の少女がこちらをしげしげと見ていた。まだ幼い少女だ。白過ぎるくらい透き通った肌に、血色のない頰。少し瘦せぎすな印象すら受ける。

 瞳はスモークグレーに近い薄い翡翠色だ。その瞳を銀色のキラキラした睫毛が縁取っている。

 年相応の愛らしさや可愛らしさ、という感想よりも先に、神秘的で現実離れした印象が強い。


(なんというか、妖精みたいな子だ……)


 コテリ、と首を傾げると、銀色の髪がふわふわと揺れた。相当な猫っ毛のようで、ゾーイが纏めあげるのに苦労している。


 事故で死んだ私にとある契約を持ちかけたのは、まぎれもなく成長したこの銀髪の少女だった。


(私に、エリナ・アイゼンテールとして、この世界を救えとかなんとか……)


 未だに自分の境遇が信じられない。

 私はそっと窓の外の世界を見た。相変わらず、窓の外は吹雪いている。


 エリナ・アイゼンテールはこの銀色に吹雪く世界を、私、佐藤恵里奈に託したのだ。


連載開始しました!いまだに転生モノなのか転移モノなのか迷います。

よろしくお願いいたします!

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