妄想のキミは生き生きしてる
僕には妄想癖がある。
僕はクラスの女子全員の妄想物語を産み出した。
僕の頭に浮かんだイメージのまま妄想は作り上げられていく。
ずっと下を向き、いつも前髪で顔を隠し、毎日誰とも喋らず、一度も笑ったところを見たことがない澪ちゃんの妄想も当然した。
前髪の短い澪ちゃんが僕におはようと言う。
筆箱を忘れた僕に気付いた澪ちゃんはすぐにシャープペンを手渡す。
休み時間は友達と話に花を咲かせる。
僕が休み時間に何気なく言ったダジャレを澪ちゃんが隣の席で笑う。
昼休みにはバレーボールをして活発に身体を動かす。
鼻歌を歌い、まっすぐ前を見てスキップで下校する。
朝から放課後までずっと澪ちゃんは笑顔を絶やさない。
妄想ならいくらでも澪ちゃんを幸せに映せる。
でも妄想と現実の間には相違がある。
その相違は埋められないと分かっている。
現実はそんな簡単なものではない。
昼休みに僕は友達と戯れていた。
いつものように飛び出す僕のダジャレ。
「内容は無いよう」
ほんの僅かな吐息のような笑い声に気が付き、僕は隣を見た。
前髪で顔を隠し、下を向き、一人でいる澪ちゃんの顔は少しだけ緩んでいた。