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そのボタンを押さないで  作者: 暁庵
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消去と再生

 長かった夏休みもそろそろ終わる···


 僕は、ひとりでお婆ちゃんちに行った。


 横浜から京都まで新幹線、そこからバスに揺られること約1時間!おかげで…


「······。酔った···」


「ガハハ···。すまんな。生憎と車検に出しちまったから。わかるか?車検って···」


ー知ってるってば···


 おじさんコト、林修さんは、母さんの弟。その奥さんは、周さんと言って診療所で看護師をしている。


「はぁ···」


 ガタゴトとお尻が、バウンドして余計に···


 バタンッ······熊笹の陰に隠れるようにコトを済まし···


「あと少しやから···」おじさんは、困ったような顔で笑ってた。


 お婆ちゃんちに着くと、みんなが笑顔になって僕を迎えてくれた。


「さぁさ、こっちきんしゃい」とお婆ちゃんは、縁側に座って隣の座布団を叩く。


「うん。あんまり、ここは変わらないね···」毎年お婆ちゃんちに来ているのに、ここだけは昔のまま···


「元気そうで良かった良かった。学校は、楽しいかい?」


「うん···」嘘。楽しくなんかない···


「来月、最後の体育祭があってね···」いつもはうるさく感じる蝉の声が、柔らかく聞こえてくる。


「亘くん。冷たい麦茶どうぞ」おじさんの奥さんである周さんが、麦茶とスイカを持ってきてくれた。


 横浜ではあまり食べない。好きなのに、母さんが買ってきてくれない···


 スイカを一口かじると甘じょっぱかったし、ぬか漬けもこれまた美味しかった。


「あ、ひまわり?」小さなお地蔵さんを囲むように小さなひまわりが、たくさん咲いていた。


「あぁ。今年もいっぱいに咲いてくれた。咲も喜んでおるじゃろーよ」


 咲というのは、おばさんの娘さんで、僕の姪っ子。産まれて数カ月しか生きられなかった。"乳児突然死症候群"だった。


ー恵理子ちゃん···


 話した事はないし、たった1日しか共に学ばなかったけど、優しそうな感じだった。あんなことがなかったら、今でもまだ···


「まぁ若い頃は、いろんな事がある。ここにいて、のんびり過ごせばいい···」


 しわだらけのお婆ちゃんの横顔···。たぶん、母さんが何かを話したのかも知れないけど···


「うん···」


 縁側で伸びをしながら、そのまま後ろに倒れ込む。しみのついた天井も蛍光灯もこの畳も変わってはいなかった···


ー変わったのは、僕?




 夕方になると、近くの神社で夏祭りが行われると聞いて、のんびり歩いてやってきた。


 ピーヒャラ···ピーヒャラと祭り囃子と一緒に食欲を唆るソースの香りが、僕のお腹に声を掛ける。


「毎年くる露店商は違うんだよな···」フランクフルトを買って、食べながらいろいろと見て回った。


 ガサッ···


 一本の大きな桜の樹。確か、染井吉野だったかな?僕が昔遊びに来てる時は、毎回花を咲かせていたけど、去年も今年も何故か花を咲かせてくれないって、お婆ちゃんが寂しそうに言ってた。


「生きてはいるんだろーけど···」毎年葉をつけるから···


「受験終わったら、またくるよ。そしたら、花を咲かせてくれないか?いーっぱいだぞ?いーっぱい···。そしたらさ、恵理子ちゃんも···見れる···から···なっ?」


 悔しかった。何も出来ない自分が、ただ、ただ悔しくて···


『ありがとう···』


 っ?!


 祭り囃子が聞こえるのに、優しい声で、いまありがとうって聞こえた。


 暫くそこにいたけど、その声はもう聞こえなくて、僕は花火を少し見て帰った。


 不思議なことに、その日はちゃんと眠る事が出来た。


 2日目は、おじさんと一緒に川で釣りをして、マズメを釣った。しかも、人数分!焼いた魚を食べるのも久し振りだったけど、他で食べるのよりも美味しく感じた。


「お婆ちゃんは、人の死を目の前で見たことがある?」そう聞いたら、少し驚いた顔をした。そりゃそうだろう。15歳の少年が、面と向かって死について聞いてるのだから···


「あぁ···。あるさ···。いっぱい目にしてきた。儂らの時代は、戦争があったからな。でも、どうして?」


「ううん。なんでもない。し、宿題であるからさ、夏休みの!!」言おうと思った。誰かに聞いてほしかったけど、怖くて言えなかった。


「いいのかい?宿題なんだろ?」とお婆ちゃんは、心配そうに聞いてきたけど、なんとか誤魔化した。


 夕飯は、庭でお隣の半田さん家族とバーベキューをした。


「俺は、お前が羨ましいぞ」と初対面なのに、自己紹介直後、半田毅くんは呼び捨てで呼んできた。


「そうかな?なんで?」


「都会に住んでるのが。こっち、何もないから···」焼き立てのお肉にかぶりつきながら、そう言った。


「そう?」生まれた時から、横浜にいるからわからない。そんなもんだろうか。


「ねぇ、こっちでもいじめとかある?」同じ年だし、なんとなく聞いてみる。


「あるさ···。どこにいたって。ま、そっちよりは軽いか」


 バーベキューを楽しみながら、なんとなくその話をする。あの一件を除いて···


「人間じゃねーな。だって、教師が何も注意しないのは、おかしいやろ?」


「うん。そうだよね···。中学二年迄は、本当に平和だったんだ。それが···」緒方の出現で何かが狂い始めた···(大袈裟かも知れないが)


「アレ知ってるか?学校のなんとかっていうサイト」


「裏サイト?見たことはないけど」うちの中学もあるのかな?


 バーベキューのあとは、花火を楽しんだ。濁りのない夜空に小さく花火が華を開かせていく。


「こっちの空だときれいに見える」


「まぁな。住むには不便だろうけど、田舎には田舎の楽しさがある」


「うん···」


 帰り際、毅とラインの交換をして別れた。


「どうだった?バーベキュー。半田さんちのボンと仲良さそうに話してたな」


 おじさんが、ほろ酔い加減で話してきた。


「うん。いろんな話をした。向こうでの暮らしや学校のこととか···」


「···そっか」たぶん、おじさん達も知ってる。そう思ったのは、僕が学校と言った言葉で、顔が険しくなったから···


「お風呂入ってくるから···」その場から逃げ出すように部屋へと戻った。


 カタンッ···


「あ、これ···。夏季合宿の時に拾った変なオモチャ(か、どうかはわからない)···」赤と緑のボタンがあって、赤には消去、緑には再生と薄く書いてあった。


「消去、ね。木田が消えたら、楽なのに」同じ班の木田は、ほぼ毎日僕をいじめて、楽しんでいる。なんとなく頭に木田の顔を浮かべて、赤のボタンを押すも、そんなことで木田が消える筈もなく、カチッと音がしただけだった。


「あー、お風呂お風呂!!」お婆ちゃんちのお風呂は、二つある。普通のお風呂と五右衛門風呂!僕は、このお風呂が大好きで、来たときは必ず入る。


「風呂は熱いが、ここにいると生きてる感じがする」ひとしきりお風呂を楽しんだ僕は、真っ赤にゆだって顔で、おやすみを言って布団に入った。


 その晩、毅とのラインの他に珍しく荒川からラインが来てた。


》木田が、居なくなった···


「居なくなった、って言われてもね···」大方、他の友達と遊んでいるのだろう。他の子からも同じことを言われたけど、朝届いたラインには、見つかったとあった。


「変な話···」


 夏休み終わりまでギリギリまで、こっちにいて最後の日···


「来月、そっちに行くから!絶対に横浜案内しろよな!!」と毅が、目を真っ赤にして言ったのが、嬉しくて泣いた。


 新学期初日は、いじめられる事はなかった。木田の話でもちきりだったから。


『遊んでて、記憶喪失なんてあるのかな?』

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