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そのボタンを押さないで  作者: 暁庵
3/4

空席

 夏季合宿も終え、期末テストを終え、いよいよ夏休み!


「はっ?塾って?やだ、僕行かないよ!そんなとこ」


ー期末テスト頑張るんじゃなかった!それに···


『まさか、ここまで成績が上がるだなんて···』と担任と副担任が、揃って期末テストの評価や成績表を見て、喜ぶ。


「だめよぉ。もぉ、お金振り込んじゃったし。いまさら、辞めても返金されないのよぉ···」


「······。」


「せっかく、ここまで成績が上がったんだ。やるだけやっても、悪くないだろ?」


「······。」


 見山市内の中では、超有名な明石山塾は、大学で例えるなら東大並みに頭がいい生徒が多い。


ーでも、そんなところへなんで?


「でも、良かったわぁ。緒方さんが、クチを聞いてくれて···」


 っ!!


ーアイツの策略か···。行きたくないな···


「······わかったから···」


 次の日、僕は母さんと渋々塾長との面談に行き、厚くて重そうな参考書を持ち帰ってきた。


 塾のスケジュールを見てゲンナリする。


「学校にいるよりも長いじゃん。殺す気か?」


 塾の開始時間は、午前9時。そこから、1時間ずつ授業があったり、トイレ休憩、お昼休憩。午後の授業は、午後の1時〜夕方の17時。で、休憩挟んで夜の21時までミッチリある。


「まー、毎日って訳じゃないからいいけど···」


ーまた、母さんにお弁当作ってもらわなきゃ。夕飯は、マックで抑えよう。


 夕飯の後、その参考書や問題集を見ても、一般的よりも多少低い僕の頭では、理解が出来なかった。




「······。」


「へぇ、来たんだ。奴隷···」


ーあんたが、仕組んだんだろーが!


 言いたいのを我慢して、空いてる席に着くと、


「私も今日は、ここにしよっ!ねっ!」緒方までついてくる。


 なんとなく、周りの目が···


「そーだっ!」と手を一度叩いて、緒方が立ち上がって、僕を教壇に立たせた。


「今日から、この石坂がみんなのストレスの捌け口になってくれるからね!そうだよね?ど·れ·い!なんだから···」


 なんとなく、席につくみんなの顔が···


「じゃ、楽だな」


「俺ら、ストレスたまってるし」


「なんでもしてくれるの?!」


「······。」


「ただし!えっちな事や犯罪は、だめですよぉ!!」


「わかってまぁーす!」


 クスクスといった笑い声が至るところから聞こえ、先生が教室に入ってきて、急に静かになった。


 授業初日の今日は、学力テストだった。幸いにも、学校で習った所がかなり出たから、なんとか全てを埋める事ができたけど···


ーこれが、週何日も続くとなると···


「俺、死ぬな···」


 ツンツン···ふいに背中に何かを当てられて、振り向くと後ろの席の奴で···


「お前、死ぬの?」笑いながら言ってきた。


「······。」


「お前、さっきそう言ってただろ?」


ーものすごい地獄耳の奴で···


「死ぬんだったらさ、俺にも見せてくんね?」


「······。」


ーものすごく危ない奴だった。


 休憩時間は、10分であったが、学校と同じようにいじめを受けた。


 しかも、教室に先生がいても、奴らは僕に教科書で頭を叩いてきたり、スリッパで顔面を叩いてきたりした。


 それを見ても、先生は何も言わず、無視をしていた。


ー狂ってる···。どいつもこいつも···


 それでも、僕は父さんや母さんに心配を掛けたくないから(小学校時代も)何も言わなかった。


 塾に通って、1週間がたったある日···


 窓側の一番前の席が、ずっと空席であることに気が付いた。


「あー、あれ?貧乏神の席」と後ろの席でニヤついてる中田がそう言った。


「······。」


「俺達が、ちょーっと遊んでやったら、次の日からパッタリ来なくなった」


ー遊ぶって、いじめか?


「ほら、可愛いだろ?」中田が、そう言って僕に見せてくれたスマホの画像は···


「なっ!!これっ···」


 顔に青アザをつくり、男のモノを口に咬わえてる姿や裸で無理矢理犯されてる姿、ロープで縛られながら···


 思わず目を背けたくなる写真だった。


「今頃、恵理子どうしてんだろーねー」とまたニヤニヤし始めた。


「こいつ、俺らん学校でもズバ抜けて成績良かったし、可愛かったし、人気だったんだぜ?」


「······。」


ーだったら、どうしてそんなことを?


「狂ってる···」


「だろーな···。さぁって!週末の試験で、いい成績とらんとな」


 中田は、そう言いながらポケットから何かを取り出した。


「な、それって···」


「これか?」


 フゥッ···


 中田は、白い煙を俺に向かって吐き出した。


 ゲホッ···


「くせぇ···」煙草のようで、父さんが吸ってる煙草よりも、臭かった。


「IQOS、だ」


「未成年の癖に···」


「ま、薬ヤルよりはいいだろ?」


 次々と生徒が、教室に入ってきたから、中田は、「じゃーな。奴隷」と手をあげて席に戻った。


ー狂いすぎてる···



 授業が始まり、少ししてから、ガラッとドアが開いて、静かにその女の子は入ってきた。


「······。」


ーでも、どこかで?


「恵理子、10分遅刻だ」先生が、顔を向けずに黒板にまた文字を書き始める。


ーあの子が···


 数学の授業が終わると、数人の男子がその子を取り囲んで、何か小さく言っては笑ってた。


···のを次の授業の準備をしながら、チラッと眺めた。


「奴隷?あんた恵理子とヤリたいの?ジッと見てて···」


 緒方が、耳元で言ってきたが、別段興味はなかったし、そんな犯罪を犯してまで童貞を捨てたくはなかった。


「恵理子んち、親の会社が倒産したんだよね?中田、あんた付き合ってたんなら、そこらへん教えてやったら?」


 っ!?


「······。」


ーだったら、どうして!!


 僕は、それだけで頭がおかしくなりそうだった。


 昼は、母さんが作ってくれたお弁当をひとりで食べていた。


「どーれいっ!これ、あげる。飲んで」と緒方さんともうひとりの誰だか知らない女の子が、ニヤニヤ笑っていちご牛乳を僕の席に置いた。


ー賞味期限は、明日か。冷たいし···


 一言礼だけ言って、受け取った。


「飲んで?言ったよね?飲んでって!」


「······。」


「大丈夫だって。そこの自販機で買ったんだし···」


 確かにその女の子も、同じパッケージの飲んでるけど···


「ぼく、甘いの苦手なんだよ」


「残念。じゃ、なになら好き?」


「お茶とか···」


 緒方さんらは、しつこく言ってたけど、本当に甘いのが苦手なんだ。飲み物は···


 空になったお弁当箱を包んで、鞄の底に押し込むと僕は本の世界に入り込む。


 ジャバッ···と上から水とか掛けられようが、ゴンッ···と辞書の角で叩かれようが、ひたすら耐える。


「恵理子!」中田くんが、ぼくが貰ったいちご牛乳を奪って、渡しに行った。


 中田くんは、こっちを見ながら笑いながら何かを言って、恵理子という女の子は軽く頭を下げて、それを飲んでいった。


「······。」


ー気のせいだったのか?


 いちご牛乳を飲みきった恵理子ちゃんは、普通に僕の隣を歩いて、パッケージをゴミ箱に捨てていった。


「······。」


 午後の授業は、だるかった。言っている内容すら理解出来ず、とりあえず浸すら書き写すだけで精一杯で、なんとか全てが終わった。


「あっ、奴隷。お前、ライン教えろ」と僕がスマホを慌ててしまおうとしたら、奪われ···


「消すなよ?今夜、素晴らしい画像送ってやっからな」いつものようにニヤニヤとした笑いをし、中田くんは恵理子ちゃんの席に向かっていった。


「なんだろう?」なんとなくこの教室にいる生徒は、不思議な感じがする。僕をいじめてる割には、普通に話しかけてきたり、途中まで帰ったりする。


ー断ったら後が怖いし···



「どうかした?疲れた?」帰宅後、軽くご飯を食べている手が止まり、母さんに声を掛けられた。


「うん?別に、なんでもないよ···」すれ違いざまに、恵理子ちゃんと目が合った。ただ、それだけなんだけど···


ーなんか、おかしな感じだ···


 風呂に入ってる時に、玄関の方で音がしたから父さんが帰ってきたらしい。


「ふぅっ。熱かった。父さん、おかえり」


「うん···。亘?どうだ?塾の方は···」


 珍しい事に父さんの方から、話を振ってきた。


「別に···。最近は、少し理解出来るようになったけど···。おやすみ」


「あぁ···」


 部屋に入るとつけていたエアコンの風で、瞬座にして汗がひいてくる。ほてりすぎた身体をベッドに投げ込みながら、枕元に置いてあるスマホを確認した。


ーうん···。


ーしたんだ···よ···。


「嘘だ···ろ?」


 最初、中田から届いたラインは、見たくもないえっちな動画だった。画面に映っているのは、裸の恵理子ちゃん···


 変な声をあげながら、ふたりの男にもみくちゃにされていた。


「······。」消すつもりで、指を動かしたら、次の動画が届いた···


「おい···どうした?おいっ···」


 恵理子ちゃんは、裸のままフラフラと誰かが用意した踏み台に乗って、こっちを見ていた。


ー誰が撮ってる?中田?


『どうした?お前、死にてーんだろ?鞄の中に、こーんなもん隠してて···』


『あーっはっはっ···』男は、全員変なマスクを被っていたから、誰が誰なのかわからない。


 恵理子は、少し笑った顔でこっちを見ていて、何かをつぶやいた。


「おいっ!やめろ!おいっ!おいーーーーーーっ!!!!!」


 ガタンと音がして、踏み台が倒れたとこで動画が終わった。




 ガチャッ···


「いったい、どうしたの?」


「亘!!お前···」


 僕は、怖くて怖くて、身体が震えた。


 ピコーンッ···


「な、なんでもないから···。夢なんだ···きっと···」


 無理矢理、父さんや母さんを部屋から追い出し、スマホを手に取る。


 見たくなかった···。


 こんなの···。


 中田から送られた動画がには···


 ロープからブラ下がった恵理子の変わり果てた姿が···


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 腹の底から声を絞り出し、部屋中にあるものを次々と倒していった···


「嘘だ···嘘だ···嘘だーーーーーっ!!!」


「亘?亘?亘ーーーーっ!!」


 気付いた時は、僕は真っ白な天井をただただ見つめていた···。



「おそらく精神的なものでしょう···」


ー違う!そうじゃない!


「······う。友達が···死んだんだ···」



 1週間、僕は病院に入院した。無理言って、個室にしてもらった。


 学校の連中も塾の連中も見舞いには来なかったし、来ても会うつもりはなかった。


「亘?どう?身体は···」


「別に···。母さん?父さんは?」


「仕事よ···。そうでもしないとね···」


 確かめたい事があったのに···


『誰がやったの?父さん?母さん?どっち?』


 中田から届いた動画が···全て消されていた。


「仕事か···。僕、プリンが食べたい···」


 一人になりたかった。泣きたかった···


 誰なんだ?


 誰があんな仕打ちを?!


 中田か?他の奴か?


 考えれば考える程、頭がおかしくなる。


 ちょうど、僕が退院した日の日曜日は、アイニク朝からシトシトと小雨が降っていた。


 この日、しめやかに“武藤恵理子”の葬儀が、行われた。


 塾の教室も暫くは、花が置かれていたが、いつの間にかなくなっていった。



いじめは、「いじめられる側」に原因があるとも言われますが、「いじめる側」に原因があると自分は思います。


いじめを受けて、人が怖くなる時もあれば、外に出るのも怖くなったりします。


心に傷を追負い、人間不信になる人もいれば、命をたとうとする人もいます。


いじめ···辛いですよ。とても

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