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そのボタンを押さないで  作者: 暁庵
2/4

夏季合宿

 あれからも僕は、毎日のようにいじめられていた。


「じゃぁ、今から班毎に別れて、怪我のないように作業しろよー」


 担任の先生の言葉を風切りに、蜘蛛の子を散らすようにそれぞれ班になり、荷物を運んでいく。



「ほら、早くしてよぉ!グズなんだから!」緒方は、少しイライラしながら、足先で僕の身体を蹴る。


「うん···」何か言われる度に、「もう嫌だ止めてくれ」と言っても、力でねじ伏せられてしまう。


 女子四人分の荷物と自分のを持った僕は、ふらつきながらもなんとかテントを張る場所に付いた。


ーやっと開放される!と思ったのに···


「おい、石坂。テントやれ」と男子のテントを張る間も、隙を見ては僕の身体を蹴ったり、石を投げつけてきたりする。


「···ったく、とれーな。こうやんだよ」とモタモタしてる僕を突き倒し、家族でよくキャンプに行ったりしている荒川君が、ひとりでテントを組み立てた。


「荒川ー、こっちもー」と緒方や神田さんが、頼むと荒川君は、嬉しそうに走っていき···


「おい、かまど作るぞ。奴隷、お前先生んとこから、ブロック必要な数だけ持ってこい」大川君が、僕を見ながら言った。


ー先生のとこなら、少しは安心だ。


 そう思ったのが、間違いだった。


「···っと、ごめん」


「······。」同じクラスだが、違う班のひとりが持っていたブロックが、いきなり僕の背中に当たって、運悪く前に立っていた女子にぶつかり、転んだ。


「きゃっ···」


「あっ···」


「石坂。駄目じゃないか!ちゃんと周りを確認しろ」先生に注意され、頭を下げる。


 長谷川さんに謝ったけど、笑いながら···


「あ、ごめーんっ!」と少し高さのある所から僕の足先にブロックを落とした。


「······。」


「大丈夫ー?」と心配する言葉をかけながらも、長谷川さんはブロックの上に足を乗せていく。


「長谷川さーん!早くー!」の声で長谷川さんは、ブロックを持っていったが、後で足を見たら親指の所が紫色に変色して腫れていた。


 ガゴンッ···ガッ···


「おせーぞ。石坂。奴隷の癖に···」緒方達は、キャーキャー騒ぎながら米を研いだり、カレー用の野菜を切ったりしながら、僕をチラチラ見ては笑ってる。


「石坂、火つけろ。確か、チャッカマンあっただろ?」荒川君が、専用の箱からチャッカマンに火を付けて、僕に渡す。


「ちげーよ。ばか。お前、持つとこ知らんのか?」


ー知ってはいるが、荒川君が渡そうとしてるのは火が付いてる方だった。


「なに、お前。これの持ち方も知らんの?こうすんだよっ!!」横にいた木下くんが、僕の手を掴んで熱くなっている発火口を握らせ、動かなくする。


「うあっ!!」離したいけど···離れない···


 5分位握らされて、掌を開いたら真っ赤にジュクジュクしていた。


「あーあ、火傷したのか?ほら、早く水で冷やしてこいよ」荒川くんが、やけに優しく言ってくれた。


「いいな?センコーらには言うなよ?わかってるよな?言ったらどうなるか···」ゴゴゴッと上から怖く睨み、僕は走って蛇口のあるとこまで逃げ出した。


 ジャァーーーーッと勢いよく水を流し、火傷した掌を冷やす。


「石川!!」急に名前を呼ばれて、振り向いた瞬間!!


 パシャッ······水風船が幾つか当たって、体操服が濡れていく。


「やっりー!当たった!」水風船を投げつけてきたのは、小石川くんだった。彼は、緒方が転入する前までは、いじめられていた子だ。無論、僕は何もやっていないけど···


「······。」


「おーい!石坂!まだかー!」少し離れた所から、荒川くんの大きな声が聞こえて、僕は溜息を付きながら戻っていった。


「ったく、おめーがなかなかこねーから、クソババアがチラチラこっち見て、気持ちわりーのなんの」


 クソババアとは、家庭科の先生で、松戸ゆかりといって、35歳にもなるのに、まだ彼氏がいないとかどうとか…


ーそんなことは、どうでもいい。


 夕飯の時間になり、先生達がホイッスルで合図をしていく。


「どうした?食わんのか?」


 僕のお皿には、普通にカレーライスが、乗っていた。


「ちょっと、焦げたとこ入ってるけど、いいよね?奴隷なんだし。食べられるだけ···」


 カシャッ···カツンッ···


ー確かにカレーの焦げ臭さはあるけど、味は普通に美味しいけど、なんでそんなニヤニヤ笑ってんだ?


 見回りに先生達がくるから、あまり苛められないけど···


 そのニヤニヤが、なんだったのか?!が、わかったのは、カレーの後片付けをしていた時に、僕はなんともいえないお腹のか痛みに襲われた。


「ト、トイレ···」慌ててお腹を押さえ、館内にある男子トイレに駆け込むも···


「使用中止···って、あぉっ!!で、出そうなのに···」


 僕は、周りをキョロキョロしながら、大急ぎで隣の女子トイレに駆け込んで、何とか事なきを得たが···


ー得てはいなかった。


 ガチャッ···


「そうそ、それでね···」


「······。」


「えっ······」


「嘘······」


 女子トイレの個室から出てきた僕と、これから中に入ろうとする女子ふたりが鉢合わせとなり······


「「きゃーーーーーーーっ!!!」」


 大きな叫び声に···慌てふためく僕···


 おかげで、最後のキャンプファイヤーに参加する事も出来ず、ただひたすら先生の看守の元、終わりまで正座をさせられていた。


「お前なぁ。いくら腹が痛いって言っても、上に行けばトイレ位あるだろーに!!」


「······。」その考えは、持ち合わせていなかった。お腹のことばかり、考えていたから···


 キャンプファイヤーが終わり、僕は先生に連れられて班のテントまで行って、なんとか端っこで眠る事が出来た。




 二日目···


 の朝は、眠気覚ましに女子は、ラジオ体操で、男子はキャンプ地のゴミ拾い。


「石坂ーっ」


 コンッ···先生の目が届かない所で、みんなが拾った空き缶やペットボトルを投げつけてくる。空き缶も中身の残ったペットボトルも、当たると痛い。お腹の痛みは、少しはマシになっていたが、下剤でも入れられたんだろうか?


 僕は、あまり動くことなく身体にぶつけられたゴミを拾っていくだけだったから、早くに袋がいっぱいになった。


「ムカつくな。せっかく俺らが拾ったゴミだったのに···」


 朝ご飯は、キャンプ地の人が作ってくれたおにぎりと豚汁だった。


『やっとまともな食事だ。ありがたくいただこう』室内でボランティアの人もいるから、僕はつかの間の平和を味わった。


『そういや、アレはオモチャなんだろうか?』荒川くんが、僕に投げつけたゴミは、金属で出来たスイッチみたいなものだったから···


 僕は、そっとポケットの膨らみを確認すると、残っていたおにぎりと豚汁のお替りを申し出て、ボランティアの人を喜ばせた。


 朝食のあとは、ボランティアの人と山菜取り!僕にたくさんおにぎりをくれた和泉さんというおじさん。まだ、40歳なのに、もうお孫さんがいると話してくれて、くっついてくれたから、安心出来た。


「これが、筍だ。筍だって言っても、姫筍だから、ちょっと水洗いしただけで食えるぞ。そこのお兄ちゃん!それは、取らないほうがいい」


 同じ班の市川くんが、お地蔵さんの前に生えていたニラ?みたいな葉を取ろうとして、手を引っ込めた。


「それは、水仙の葉じゃ。食べると、腹を壊すからな···」


「は、はい」市川くんは、少し笑っていたけど、僕は聞こえた。


「ちっ。あと少しだったのに」そういう荒川くんの声が···。


『まさか?でも、昨日のカレーには入ってなかったし』


 姫筍やぜんまい?わらび?とか、覚えきれない名前の山菜を収穫し、新聞紙に包んで貰った僕達は、途中春日野大社に寄って参拝して、学校へと帰っていく。


『母さん達、喜んでくれるかな?食べきれなかったら、管理人のおじさんにあげようかな···』


ーボランティアの和泉さんの奥さんが、コッソリくれたお焼き。家で食べようっと···前半は、嫌なことだらけだったけど、後半は本当に良かった!!

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