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そのボタンを押さないで  作者: 暁庵
1/4

悪夢再び

「······。」


「宜しくお願いしまーす!」


 そいつが再び僕の目の前に現れた瞬間、平和な中学生生活が音もなく崩れかけていった。



 ガタンッ···


「宜しくね。わ·た·る···」


 僕の隣席が、空席だったから、この悪魔こと緒方沙幸がにこやかな笑顔で座った。


ーどうしてだ?誰にもここに来るとは言ってなかったのに。


 恐らく父親の仕事の関係だと思うが、それでもいま僕の隣で真剣にSHR(ショートホームルーム)を受けている緒方沙幸の横顔をチラッと盗みみた。



 ドンッ······


 放課後、帰り支度をしようと机から教科書を取り出そうとした時に、大きな音がして顔をあげる。


「これ、重いんだけど?持ってくれるよね?いままで、あんた奴隷だったんだから···」


「······。」


 緒方は、まるで周りに聞かせるような声を出して、笑って僕をみた。


「私、昨日こっちにきたばっかなんだから。ほら、早くして。帰りが遅くなるとママが心配するから!!」


「···うん」


 周りはなんか驚いた感じで、僕と緒方を見ている。


「緒方さん?帰りが不安なら···」


 クラス委員の笹中さんが、声を掛けるも、


「いいのよ。こいつは、もともと私の奴隷!だったんだから···。そうよね?わ·た·る?」


ーなんと言えばいいんだろうか?周りの視線が僕に集まる。


「出来た···から···」


「あっそ。じゃーね、笹中さん」


「あ···うん。さよなら」教室を出ても、学校の門を出ても、なんか見られてる気がして、前を歩く緒方が、ポケットからスマホを取り出し誰かと楽しそうに喋っていた。


「···んと、確かこっちなんだけど」緒方は、周りをキョロキョロしだすも、覚えていないらしく、


「あんた、こっちに住んでんだから。ここ、わかるんでしょ?!速水3丁目のレジデンスマンション!ほら、案内して!!」


 そこは、僕が住んでるマンションだった。


「······。」


ーどうか近所の人や管理人に会いませんように!!頼む!


 と言う僕の願いは叶わず···



「おー、亘くん。おかえりー。あ、こりゃどうも!!」レジデンスマンションの管理人·相川さんが、マンションの表を掃除していて、バレた。


「······。」


「管理人さん。ただいま!ほら、早く!」と緒方が、いかにも仲良さげな感じで、僕の手を掴んでくる。


 ···も、


「ふぅん。あんたもこのマンションなんだ」


「······。」逃げ場を失った僕は、自分の家を通り過ぎ、最上階の緒方の家へとエレベーターで昇る。



 ガチャッ···


「ただいま。ママー?懐かしい子に会ったわよぉ!」緒方は、僕から乱暴に鞄と教科書が入った紙袋を奪うと、家に入っていった。


「······帰ろ」


 僕は、自分の鞄を背負い、再びエレベーターで下へ降りていった。


 ガチャンッ···


「ただいま···」


 うちは、共働きだから家に帰っても夕方までひとりの事が多かった。


「はぁ···。また、あの地獄を味わうのか」ベッドに大きくダイブしながら、枕に顔を埋めた。



 そして、僕の悪夢が再び行われた。


「おはよう···」


 朝、教室に入った僕は、違和感を感じた。いつもなら、騒がしさが続く教室の中に、僕が入った瞬間、急に静けさが広がった。


「浩太?」


「あ、俺職員室行くんだった。じゃ、後でな」僕の顔を見た瞬間、浩太は慌てて教室を出ていった。


「おはよう、奴隷···」


「······。」隣席に座った緒方が、他の女子と一緒にニヤニヤ笑いながら、墨を見上げる。


「おい、亘!」名前を呼ばれ、振り向いた瞬間、バンッと僕の顔に上靴が当たった。


「やった!10点だ!」とガッツポーズをする綾部祐二。クラスの中では、体格もよく力もあった。


「じゃ、次俺ー!おい、石坂動くなよ?」野球部で、ピッチャーをしている田中哲司が、構えながら僕を見て、自分の上靴を投げてきた。


 逃げようにも、身体をサイドから掴まれ動く事も出来なかったが、顔を反らす事は出来たから、顔に当たる事は無かったが、その反動で後ろの棚に置いてあった鉢植えに当たって落下。


 ガシャンッ···鈍い音を立て、割れた。


「あーあ。いっけないんだ!」


「それ、愛子が大切に育ててるやつだろ?」


ー愛子というのは、このクラスの担任で、小さな事でもケンケン怒る。


「俺、先生に言ってくる!」


「······。」クラスの何人かが、職員室に走っていき、緒方が僕に近付いてきた。


「あーらら。割れちゃったね。可哀相に···」緒方は、しゃがんで割れた欠片を拾い集め、僕の掌に乗せた。


「それ、握ったら?怪我したら、先生に怒られないかもよ?ふふ···」緒方の手が、僕の手を包み温かさと痛さが瞬時に伝わった。


 それが却って良かった(良くはないけど)のか、


「まぁ!!大丈夫?石坂くんっ!ほら、保健委員。石坂くんを保健室に!!」


「······。」


「はいはい。行きますよ···」


 先生の前では、誰もが【良い子】を演じてる。だから、教室を出て、階段の影までくると、


「ほんっと、迷惑なんだから···」胸ぐらを掴まれ舌打ちをされた。


「······。」


「お前、あいつの奴隷なんだろ?ラインで回ってきた」普段、石川勇斗くんとは、喋る事は無かったが···


「······。」


「じゃ、いいんだよな?あいつの奴隷は俺らの、ど·れ·い、なんだからさ···」


 目の前が真っ暗になっていく。


 保健室で手当を受けていた時、石川くんは椅子でクルクル周りながらスマホを弄って笑っていた。


「こーら!学内でいくら3年だけ認められてるからって!はい、おしまい。一応、学校終わったらちゃんと病院行くのよ?」


「はい···」保健室の先生は、優しいけどちょっと怖い。


 ガラッ···


 ドアを開け、頭を下げて帰るも、教室に行くまでの間、


「ほんと、愛子の奴ムカつく」と、何度も背中を殴られ続けた。



 1時間目は、国語のテストで遅れながらも受ける事が出来たし、怪我したのは左手だったから不自由は無かった。


 2時間目の授業は、男女混合のドッジボールで、僕はボールに当たり続けた上に、


「お前がいるから、俺達負けたんだろーがっ!!」と言われ、ひとりで片付けをさせられ、3時間目の授業に遅刻し、歴史の林先生に、「石坂、お前ひとりでサボッてたのか?」と怒られた。


「······。」


 クスクスッ···


「サボり魔···」


「いい気味···」


 席についた僕の耳に、嘲笑うような声が届く。


 昼休み、誰よりも早く弁当を食べた僕は、逃げた。先生がいる職員室や図書室に···


 でも···


「掃除、サボんな。ばーか」火曜日は、昼休みに掃除をするのを忘れ、捕まって教室に戻され、後半一人で掃除をした。


「お前は、奴隷なんだからさ···」


「奴隷って、主の言うこと聞くんだよね?」


「亘?私ね、アイス食べたいなぁ···」緒方が、笑いながら言う。


「亘が、戻ってくるまで、私頑張って机運んだから、ほらこれぇ、見て?」と掌を見せてきたけど、ただ白いだけだった。


「ほら、ここ。赤くなってるでしょ?」


 赤くもなってない掌をジッと見つめる。


「ほんとだ!お前どうすんだよ。緒方の手、こんなに赤くなってるだろ!」


「······。」


 騒ぎを聞きつけ、他の掃除を終えた生徒も集まり出しては、


「酷い!」


「可哀相に!」


「奴隷は、奴隷らしく俺らの言う事聞いてりゃいいんだよ!これ、片付けろ」僕の方に、箒や塵取りが投げつけられる。


「いいよね?アイス···。1個100円なんだし!ねっ?」


「······。」頷くしか無かった···




「あぁっ、美味しっ!」


「······。」僕の隣で美味しそうにアイスを頬張る緒方。の横で同じく貪るように食べる綾部くんと石川くん。


「俺もハーゲンダッツが良かったー」と嘆くも、「贅沢言うな。金がねーんだから、我慢しろ」と安倍くんに頭を叩かれる。


「あー、美味しかった!」


 食べ終えた緒方達は、何故か僕の家までついてきて、上がり込んだ。何も知らない母さんは、喜んでいたのが、苦しかった。



「おっ?これ新作のゲームじゃん!ありがとな!」


「······。」誕生日にお婆ちゃんが買ってくれたウェイパー4というゲームのソフトを綾部くん。ベッドに寝転がり、僕の漫画を読み始める石川くん。


「なんか、あんたの家狭くない?」最上階に住んでる緒方の家は、かなり広いのは知ってる。一番上なんて、お金に余裕がないと入れないから···


「ねっ!おやつある?お腹空いちゃった」と言っても、普段お菓子なんて食べないから、買い置きなんてない筈だったのに!!


 コンコンッ···


「はい、おやつ。たくさん食べてね」と母さんが気を利かせてチョコやクッキーを買ってきてくれた。


「わっ!おばさま!ありがとうございまぁす!」


「いいのよ。いつも親切にしてくださって···」


 ドアを挟んで緒方と母さんが、挨拶をし合った。


「ほんと、お前はたぬき···。いや、きつね、か?」とクッキーを食べながら、緒方に話し掛けては、頭を叩かれる綾部くん。


「学校は、学校。家よりストレスたまんのよ···。亘、これやって!」と今日出された宿題を渡してきた。


「少し位、字汚くてもいいから、やって!あんた、頭はそこそこいいんだから」


「······。」緒方の方が上なのに!


「俺も···」


「奴隷ちゃん!頼む!俺、数学苦手なんだよ」三人が思い思いの格好でくつろぐ中、僕はひとり机に向かって三人···いや、四人分の数学の宿題を字を真似て解いていく。


 最初は、ごく一部の人が僕を奴隷扱いしていったのに、気付いたらクラス全員僕の主となっていって···


 一ヶ月がたった···

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