記憶の花
フロウの庭はとても広く、家そのものの三倍ほどの広さはありそうです。フロウはそんな広い庭でも歩き慣れているのか、迷うことなく小さな青い花が咲いているところへとやってきました。
「——この青い花には"記憶の魔法"を使う時に助けてくれる精霊が住んでいる」
「記憶の魔法?」
「記憶を思い出させたり蘇らせる魔法や、逆に記憶を消し去ったり思い出せなくする魔法のことだ。他にも沢山あるが、厄介な魔法もあるからね」
オズルはその説明を聞き、分かった、と言うようにうなづいてみせました。
「あと、精霊って?」
「この世界を保ち続けてくれているもの。精霊はこの世界にある全ての命が存在し続けるために必要なものさ。草花に住んでいたり、空気中に漂っていたり、いろんなのがいるけどその本質は変わらない。
あと、精霊は魔力のもとにもなったりする。精霊がいないと使えない魔法もある。世の中には善い精霊もいれば悪い精霊もいる。善い精霊に手を貸してもらって使う魔法は人を幸せにする魔法のことが多い。悪い精霊に手を貸してもらって使う魔法は人を苦しめる魔法の方が多い。
これで分かったかい」
「なんとなくは」
「よろしい。だから、この花にいる精霊に力を借りてオズルの生年月日を知ろうというわけさ。なに、この花に住んでいるのは善い精霊だから安心しな」
フロウはそう言ってその花をそっと手折り、オズルに持たせます。
「さあ、尋ねてみな」
オズルはこくりとうなづき、尋ねました。
「精霊さん、僕の生年月日を教えてください」
(——しまった!)
その時、フロウは気付きました。
精霊は人間の目には見えず声も聞こえない、でも人間ではないものの目には見えて声も聞こえるものであるという事に。つまり、オズルの目には精霊は見えるわけもない、声が聞こえるわけもないということに。
いつも自分は精霊が身の回りにいるのが見えるので、精霊の声だって聞こえるので、ついうっかりしていたのです。
フロウは精霊の言葉を聞きながら、一つ溜息を吐きます。
(まあ……あたしが教えてあげればいいか)
「——十二年前の十月三十一日、その日の夜に生まれたんですね?」
フロウはどきりとしました。
誰かが精霊が言った言葉を繰り返したのです。
(まて、誰の声だった?)
——そんなの、考えなくても分かります。
間違い無く、オズルの声です。
「ありがとうございます、精霊さん」
オズルが青い光のようなそれ——精霊に向かって微笑みます。
その姿を見ながら、フロウは呆然としました。
(オズルには……精霊が見える?)




