新たな日常
あれから、一ヶ月が経ちました。
「おはよう!」
オズルが外に出ると、村人たちはいつも通り、元気に挨拶してくれました。
しかし、一つだけ変わったことがありました。
「おはよう、オズル!」
「オズル、今日はちゃんと起きれたかい?」
皆がオズルのことを"オズル"と呼んでくれるようになったのです。もちろんそれは、あの夜、オズルが正体を明かしたからでした。
そして、変わったことは、もう一つ。
「おはよう!」
「お!おはよう、フロウ!」
「フロウは朝から元気だなぁ」
フロウが再び、マディシナ村で暮らすようになったことでした。これも、オズルが誤解を解いたためです。
実はあの後、フロウの小屋に村人が何人かやって来て、フロウに謝ったのです。
『フロウは何もしていなかったのに、疑ったりしてごめん』
その言葉に嘘はないと分かったフロウは、村に戻ることを決めました。
「今までは本当にごめんよ」
「何にも知らずにフロウのこと疑ったりして……」
「もう何回目だい!終わったことなんだし、気にしないでいいんだよ。それより、また薬を作ったんだ。前みたいに家の前に置いておくよ。でも、今度はちゃんと商売にするからお金はかかるよ。番はルイーザに任せてるから」
『全く、ここから身動きできない私の身にもなってよね、フロウ』
ルイーザも勿論一緒に来ていました。今はフロウの家の前で、ぶつぶつと文句を言いながらも、女の人に変身した姿で薬の番をしています。
これではオズルの薬屋の意味がなくなってしまうのではと考える人もいるかもしれませんが、実はオズルの薬もフロウの薬も万能ではなく、全ての人によく効くわけではないようなのです。つまり、人によって合う合わないはあるということです。なので、オズルの薬の方が効く人はオズルの薬屋に、フロウの薬の方が効く人はフロウの薬を、というように人々は自然に使い分けるようになっていきました。
村人たちは喜びの声をあげました。
「ありがたいなぁ、本当に」
「いつもありがとな」
いいえ、とフロウが首を振ると、サリアが尋ねました。
「どこに行くの?」
「キンダーヘイルに。オズルも行くかい?」
「うん!」
オズルは元気に返事をして、フロウについて歩きました。
キンダーヘイル——母の家に向かって。
「母さん、元気?」
「とっても。オズルも元気そうね」
ユリアが嬉しそうな笑顔でオズルを迎えました。そしてフロウの方を見て、
「いらっしゃい。今日は何が入り用かしら?」
「今日はペン立てが欲しいんだけど、おすすめはあるかい?」
フロウの問いに、ユリアは楽しそうに雑貨を選んで渡しました。
「これがいいと思うわ」
それは黒猫の模様がついた、シンプルなペン立てでした。
「流石だね、ユリア。あたしの好みだ」
「私の得意な魔法は心理魔法よ?」
心理魔法——相手の考えや感情を読み取る魔法——の使い手であるユリアにとっては、このぐらいはお手の物なのかもしれません。
「オズルは何か欲しいものはある?」
「僕は……」
オズルは何も考えずに来てしまったので、特に今、雑貨で欲しいものが思い当たりませんでした。
「うーん……。あ、これ」
ふと目に入ったのは、月のランプというこの村の名産品でした。
「これ、ください」
月のランプはとても優しい明かりを灯してくれるので、オズルはとても好いており、またフィリーや友達の精霊たちも、この灯りを気に入っていたのでとても重宝していましたが、使い過ぎたのか壊れ始めていたのです。
ユリアは会計の時にフロウには小さな鉢植えを、オズルには小さなペンダントを入れました。
「いいの?」
「二人とも、これが入り用みたいだったからね」
「そう!ペンダントで魔道具を作ろうとしてたんだ」
「流石だね、ユリア。ありがとう!」
その後、オズルはフロウと別れ、ヘーメルオーストに向かいました。その途中でのことです。
「そういえばあの二人は何してるのかねえ」
オズルは思わず、足を止めました。
「ギニアとユリーシャかい?隣村で家具屋と服屋を続けてるって噂だよ」
「改心したんならいいんだけどねえ……」
そんな会話がどこからか聞こえてきたのです。
実はあの後、オズルをちゃんと育てていなかったことが判明したギニアとユリーシャは、マディシナ村を追い出され、隣村に移り住む羽目になったのでした。
(——人ってそんなに簡単には変われない)
オズルはそう思っていました。
しかし、それと同時に、オズルは願っていました。
(父さんと継母さんが偽善者じゃなくて、本当に優しい人になりますように)
簡単には変われないけれど、変わろうと心の底から願うのならば、変わることができるのだから、と。
その頃、フロウは。
「アル、りんごはあるかい?」
市場にいました。
「ああ、あるよ!新鮮で美味いりんごだよ。一つ二十ルーでどうだい?」
「二つ頂戴!」
フロウがりんごを買った後、あちこちでフロウを呼ぶ声が聞こえました。
「美味しい肉はどうだい?」
「魚が新鮮だよ!」
その声に誘われながら、フロウは楽しそうに市場を歩き回りました。そう、フロウが以前演じていた"アンネ・フローラ"のように。——いいえ、本当は演じていませんでした。
アンネ・フローラとは、フロウ・アイーネの真の姿に他ならないのでしたから。




