美しい朝
翌日。
オズルは鶏の鳴き声ではなく、フィリーの鳴き声で目が覚めました。オズルが広い部屋に行くと、すでにそこにはフロウとルイーザがいて、フロウが朝食を作っていました。
「おはようございます、フロウさん」
フロウは不機嫌そうに言います。
「……フロウでいいって言ったはずだ」
「言いましたけど……でも」
「フロウと呼びなさい。敬語もいらない。こっちが恥ずかしくなってしまうじゃないか」
オズルが困ったように言っても、フロウはぴしゃりと言い放ちます。
「……なら……フロウ、おはよう」
「……おはよう、オズル。
椅子に座ってな。すぐにご飯にするから」
「はい!」
「……だから……」
またしてもフロウが不機嫌そうな声になったのでオズルは、
「あ……うん」
慌てて言い直します。
やがて、フロウはベーコン目玉焼きが乗ったパンと野菜サラダ、そしてスープを出してきました。フィリーとルイーザにはミルクです。
「美味しそう!」
「じゃあ食べようか」
そして、朝食が始まりました。
十分後。
それぞれが朝ごはんを食べ終わり、そのおかげか、体が温まってきました。
フロウが呟きます。
「さて、朝に摘まなきゃいけない薬草を摘むか」
「僕も……僕もついていく!」
すたすたと歩き出したフロウにルイーザがついていきます。オズルも慌ててフロウを追いかけ、フィリーもまたそれを追いかけました。
家の外は家の中よりも薄暗く、少し肌寒く感じられました。辺りを見回すと、まだ日が昇っていません。
「ねえ、フロウさん」
オズルが話しかけるとフロウは機嫌が悪そうに、無言でオズルを睨みます。
「あっ……ごめんなさい。
……ねえ、フロウ」
「……なんだい」
「なんでまだ日が出ていないのに部屋の中はあんなに明るかったの?ストーブを焚いてもいないのに春みたいにあったかかったし」
「……そういう魔法。"春の魔法"だよ。この魔法を使えば家の中は常に春の日差しがあるみたいに明るく、あったかくなるのさ」
「素敵な魔法で……えっと、素敵な魔法だね!」
オズルはまたしても敬語になりそうになり、慌てて言い直します。
オズルがタメ語に慣れるまでには、まだ時間がかかりそうです。
気がつくと、辺りが少し明るくなっていました。
日が昇ったのです。
「うわぁ!すごい!」
そして次の瞬間、オズルは叫んでいました。
外の森には霧がかかっていたのですが、その霧が美しく輝いていたのです!
「毎朝のことさ。今に驚いたり感動しなくなったりするよ。それに霧が出てると歩きにくくってしょうがない。全く、いい迷惑だ」
フロウは呆れたように言い、いくつかの薬草を摘んでいきました。その間オズルはフロウの手元をじっと見つめ、フィリーとルイーザはなにやらずっと猫語で話していました。
「——オズル」
「はい」
不意にフロウに名を呼ばれ驚いたオズルは、またしても敬語を使ってしまいました。フロウは半ば呆れて、仕方ないかと溜息を一つ吐き、問いました。
「オズル、生年月日を知りたいかい」
「どうして突然そんなことを」
「よく考えてみな。生年月日が分かればオズル、お前の歳だって分かるんだ。自分の歳を知りたいとは思わないのか」
そのフロウの言葉を聞いて、オズルははっとしたような顔をしました。
そして、独り言のように呟きました。
「……出来るなら、知りたい」
「ならこっちに来な」
またしてもフロウはすたすたと歩き出します。
「ああ、待ってくださいよ」
オズルは慌てて追いかけます。そんなオズルにフロウはまた一つ溜息を吐いて、歩きながら一言、
「……だから敬語にするなと言っているはずだ!」




