ただ一つの願い
「フロウが、恩人?」
村人達が不思議そうな声をあげました。
オズルはうなづいてみせます。
「ええ。フロウは一晩の宿ではなく、僕の新しい家を与えてくれました。フロウの家に迷い込んだときから、僕はずっとフロウのもとで過ごしたんです。魔法もフロウに習いました。フロウがいなかったら、今、僕はここにいないかもしれません。本当に、感謝しているんです」
そこまで言えば、村人達もオズルの言いたいことが分かったようです。
「……っていうことは、アンネ・フローラは、まさか……フロウ?」
「ええ、その通りです」
村人たちは、ざわめきました。オズルはあたりが静かになるのを待って、言いました。
「今までずっと、フロウはこの村に訪れ続けていました。理由は単純です。この村の人たちに例え嫌われたとしても、そのせいで人間を信じてはいけないと自分に言い聞かせていたとしても、フロウはこの村が、この村に住む皆さんが、大好きだったんです。
だから正体を隠して村に来ていたんです。ヘーメルオーストに薬を届けに行って、薬の材料の薬草を買って。アルさんの八百屋に行ったり、サリアさんのお花屋さんで店番をしたり、キンダーヘイルで雑貨を見て回ったり、村中を歩き回って、たくさんの人とお話ししたんです」
村人が全員、オズルを見つめています。
「今まで"アンネ"が村に訪れていたとき、何かおかしなことが起こったことがあったでしょうか?」
「ないよ、そんなこと!」
「私は信じるよ。フロウのことを、そしてフィリップ……ううん、オズルのことを!」
「俺も!」
「うちも!」
村人たちが、一斉に声をあげました。
オズルには、その言葉が嘘でないことが分かりました。
勿論、映像を見ていたフロウにも分かりました。
村人の言葉が、嘘でないことが。
(……これが、目的だったのか)
フロウは微笑みながら、涙を流しました。
オズルはにっこりと笑って、言いました。
「もう、フロウのことを"悪い魔女"なんて言わないでくださいね」
これがオズルの、ただ一つの願いだったのです。




