波紋
「——彼女は、人間が好きでした」
オズルは静かに語りかけました。
(——そう、あたしは好きだったよ。この村が、村のみんなが)
「人間が——この村の人々が、大好きでした」
辺りはしんとして、なんの音も聞こえません。
「彼女はこの村で過ごす日々を、そして、みなさんと過ごす日々を、とても好いていました。自分が得意な薬を作る魔法を、それだけではなく、様々な魔法を、この村のために、村に住むみなさんのために、使ってきました」
全員が、オズルを見つめています。
「彼女は決して……悪い魔女ではないんです」
「それは分かったけどさ」
オズルはどきりとしました。
「なんでそれを知ってるわけ?」
その声が、継母のユリーシャの声だったからです。
(——誰の声でも関係ない)
そう言い聞かせ、自分を落ち着かせます。
「……僕は一つだけ、嘘をつきました」
「——それって……」
「どういうことなの、フィリップ?」
(まさか、本当のことを——?)
フロウでさえ、戸惑いを隠しきれません。
(——とうとう、この時が来てしまった)
オズルは深呼吸をします。
「……僕は、フィリップ・フローラではありません。そして僕の母だと言い続けてきたアンネ・フローラも、アンネ・フローラではありません。もっと言うと……アンネ・フローラは、僕の母ではありません」
「それって……どういうことかい?」
村人の戸惑ったような声が聞こえます。
オズルは深呼吸をして、自分にかけ続けていた魔法を、解きました。
姿を変える魔法を。
「あっ!」
ギニアとユリーシャの声が被ります。
ユリアはオズルを見つめ、うなづきます。
「ギニア、ユリーシャ、知り合い?」
村人に問われ、二人は言葉に詰まります。
二人の代わりに答えたのは、オズルでした。
「ギニアは僕の父です。ユリーシャは僕の継母です。僕は、二人に虐げられ、十二歳の時に家から追い出されました」
その言葉に、村人は驚きを隠せません。
「……そんな!」
「ギニア、ユリーシャ……ずっと、嘘をついていたの?」
「ずっと子供はいないと言っていたのに……」
「う、嘘じゃない!」
「私とこの人の間の子供はいないのは事実よ!」
二人は苦しい言い訳を続けましたが、
「でも……子供はいたんでしょう?」
「ギニアは血が繋がってるはずなのに!」
村人達は反論します。
二人は頭に血が上ったのか、かっとして怒鳴ります。
「さっきからあいつの言い分ばかり聞いてるが、事実とは限らないぞ!」
「そうよ!小さな生き物なんて、魔法で幻想を見せることぐらい簡単よ!」
(……ああ、恐れていたことが起こってしまった)
オズルはずっと、恐れていました。
事実を話しているにも関わらず、それを嘘だと言い張る人が現れてしまうことを。
(今までの努力が、水の泡になってしまう……)
しかし、オズルはどうしていいか分かりません。
(どうしよう……)




