見えないものの真相
「二十年前ほどに、重い病が流行ったことを覚えていますか?」
(——どうしてその話題を)
フロウはオズルの言葉に驚きました。
「覚えてるさ!」
「あの魔女が流行らせたんだ」
「フィリップも知ってるだろう?」
「みんながフロウの所為で苦しんだんだ」
映像の中だとしても、フロウのことを"悪い魔女"と呼ぶ村人たちの様子を見るのは、流石にフロウも嫌でした。それが現在進行形で進んでいるのなら尚更。
しかし。
「——違いますよ」
村人達の声を、オズルが静かに、でもよく通る声で遮りました。
「あの病の原因は、自然現象でしかありません。彼女は、何もしていないのです」
「フィリップ……それはどういうことだい?」
村人の誰かが、戸惑ったような声をあげます。
このぐらいならばオズルの想定の範囲内です。
「病気の原因は、実は、目に見えないほど小さな生き物なんです。他の村では、これが一般常識である村も数多くあります」
「そんな馬鹿な!」
「そんなに小さな生き物がいるなんて」
「聞いたことないぞ、そんなこと」
村の人々はざわめきました。
「目に見えなくても存在するものは、数多くあります」
オズルは人々の声が静まった頃、話し始めました。
「病気の原因になる生き物も、人間の目に見えないもののうちの一つです。」
「その生き物は……どこにいるんだい?」
不安げな声で聞いてくる村人に、オズルはあっさりと答えました。
「この空気の中に、沢山います。食べ物の中にも沢山います。水の中にも、土の中にも。どこにでもいます」
「それでは人は皆、今病気になってもおかしくないじゃないか!」
「そんなにいるのなら何故人間はこんなにピンピンしていられるんだ!」
反論が湧き上がりましたが、これも想定の範囲内でした。
「人には自然と、体の中に入ってきた生き物を追い出したり殺したりする仕組みが出来ているからですよ。くしゃみをしたり、咳をしたり、涙を流したり。こういったことで生き物を追い出しています。体の中には生き物を殺すための仕組みもあります。なので普段は健康を保てるのです。
しかし、季節の変わり目になると、病気は流行りやすくなります。体を守るための仕組みが弱るからです。体を守る仕組みが弱ると、人は病気になります。しかし、軽い病気なら咳をしたり、くしゃみをすることによって生き物を追い出したり、頑張って熱を上げたり生き物を殺す仕組みが沢山働いたりして、病気が治ります。薬はそれを助けてくれるのです。重い病気だと人の方が負けて、死に至ることがあります。二十年前に流行った病は、重い病の方だったのです。しかも時期は季節の変わり目、人が体調を崩しやすい頃でした」
オズルはあくまでも冷静に答えます。
「でも、目に見えないものだと、ねえ」
「信じ難いじゃないか」
「——なら、見てみますか?」
オズルは心の中で、言葉の精霊を呼びました。一番古い、友の名前を。
(シューゲル・ヒース、手伝っておくれ)
『なんだい、オズル?——ああ、この間言っていた話だね』
(そうだよ)
オズルはすでに、ヒースに話をしていました。そして、手を貸して欲しいと頼んでいたのです。
『任せといてよ』
「見れるのかい?」
「ええ、魔法を使えば」
「なら、見せてくれよ!」
「見えないものなんか信じられない!」
村人たちの言葉を聞いて、オズルはうなづきました。
オズルは、深呼吸をして、ヒースと同時に呪文を唱えました。
(束の間のみ、見えぬものを見る力を)
『オズル・ウィリアムの言葉に、力を』
次の瞬間、村人達は大声をあげました。
「な、なんだこれは!」
「うわぁ!いっぱい何かがある!」
「これが、私たちを病気にするの?」
「……はい、そうです」
オズル自身も初めて見るので叫び出しそうになりましたが、なんとか堪えました。
「これが、病気を引き起こす小さな生き物なんです」
不意に小さな生き物達が見えなくなりました。
魔法が解けたのです。
「き、消えた」
「でも……見えないだけで、いるんだよね……?」
「ええ……います」
村人達がざわめいています。
オズルは村人たちに言いました。
「これで人間の目に見えなくても存在しているものがあると分かっていただけましたか?」
そう問いかけました。
村の人々がうなづくを見て、話を続けます。
「今の小さな生き物達が、あの時、たくさんの人たちを病気にしたのです。彼女は、病を広げるようなことは、決してしていません」
「……なら、あの薬は?」
「あの薬……あの時は毒だと疑ってかかっていたけど……」
「もしかしたら、本物の薬だったのかもしれない」
村人達がひそひそと交わす声を、オズルは聞き逃しません。
「彼女が作った薬は、本物の薬でした。決して毒ではありません」
オズルは一つ、溜息を吐きました。
『——あたし、みんなの為に、これを、作ったのに……』
前に過去に飛んだ時、そう言って泣き崩れていたフロウの顔が、オズルには忘れられなかったのです。
(——そう、あれは本物の薬。大切な人の為に作った、薬だった)
フロウは密かに涙を流しました。




