遡って
オズルがフロウから手紙を受け取ってから一週間が過ぎていました。
その日は薬屋が休みの日なので、オズルは昼間から魔法の練習をしていました。
そう。時を遡る魔法です。
床にいつものように大きな魔法陣を描いたオズルは、それを見ていたフィリーに「外で遊んできなよ。ここは危ないよ」と言いました。
それを聞いたフィリーは、部屋の外へと出て行きました。
いよいよ、時を遡る魔法を使うのです。
「魔法陣よ、時を巻き返せ。
時を遡り、真実を見せよ」
魔法の練習を始めた頃よりも、何倍も強い光がオズルを包み込み、過去へと遡らせました。
(——おかしい)
過去へ遡りながら、オズルは焦りを感じます。
いつもならもっと速く過去へと遡れるのに、その日は何故か少し遅く感じるのです。
(まさか、これでいつも通り遡れなかったら)
オズルは少し焦り、先ほどまで足元にあった魔法陣に魔力を込めるイメージをします。
(もっと速く。いつもみたいに。そして、前回よりも昔の過去へ)
ゆっくりと、時を遡るスピードが上がります。オズルはほっと一息ついて、真面目な顔に戻りました。
それからは緩やかに遡るのが止まるまで、オズルは待ち続けたのです。
着いた先は、十二年前のオズルの過去でした。
二歳のオズルは、見覚えのない部屋で、おもちゃを遊び相手に遊んでいました。ここが十二年前だと分かったのは、部屋にあるカレンダーが十二年前の年だと示していたからです。
(あれ?)
オズルはその見覚えのない部屋に違和感を覚えました。
見覚えのない部屋自体は別にいいのです。覚えていないだけで引っ越しをしたことがあったということですから。
部屋の中におもちゃがあることに違和感を感じたのです。
オズルは幼かった頃、おもちゃなど持っていなかったのですから。持っていたのは、何冊かの本だけ。
(一体……どういうこと?)
「ここは……十二年前だわ」
部屋の外から、微かな声がしました。
それはおそらく、同じようにここまで過去を遡ってきた人の声です。そうでもないとここを「十二年前」とは言いません。
そしてその声は、なんとなく聞き覚えのある声でした。
(まさか、もしかして……)
意を決して部屋の外に出ると——
「あら、オズル?」
そこにいたのは。
「——ユリアさん」
そう、ユリアでした。
「オズル……これは、時を遡る魔法よね?」
「ええ」
ユリアは少し悔しそうな、でも嬉しそうな顔をして、言いました。
「私には、この魔法は使えない」
オズルはその時、不意に理解しました。
過去を遡ったとき、速さがいつもよりも遅かった理由。
それは、オズルだけではなくユリアまでも巻き込んで、過去に遡っていたからだったのです。もっとも、何故ユリアがこの魔法に巻き込まれたのかは分かりませんでしたが……。
「ごめんなさい。魔法に巻き込んじゃったみたいですね」
オズルが謝ると、ユリアは優しく笑って言いました。
「いいのよ。むしろ……むしろ、巻き込んでくれて嬉しかったわ」




