魔女とのお約束
広い部屋に三人(一人と二匹)が出て行くと、フロウがおたまを片手に訊きました。
「オズル、苦手な食べ物はあるかい?」
「いいえ、基本的には大丈夫です」
その言葉を聞いたフロウは魔法で器を取り出し、器によそっていきます。
「言っとくけど、基本的にあたしの家では料理は手作りだからね。魔法で作ってもいいけど、なんとなく気が乗らないから。
ほら、オズル!器を取りに来な!」
「は、はい!」
フロウの口調は決して怒っているものではないのですが……何故か刺々しいのです。
オズルはその刺々しさに、何故か、悲しみや寂しさを感じました。
「で、オズル。出来ることなら、オズルのことをたくさん教えてもらいたいんだけど。歳とか誕生日、親の名前とか自分の過去とか。出来る範囲でいいから。いや、魔法で見るのは簡単だ。あたしは名高い魔女なんだから。でも、それを好まない。知られたくないことなのに知られてしまった時の気持ちを考えてごらんよ!そんなの嫌だろ?」
「……はい」
「スープでも食べながら、ゆっくりでいいから話してみな。気が楽になるかもよ」
「はい。いただきます」
オズルはスープを食べながら、話し始めました。
——正直に言いますと、何も知らないんです、僕。
オズルは言いました。
——誕生日は知りません。なので歳もよく分かりません。
外に出たこともなくて。出してもらえませんでした。窓には全てカーテンがかかっていました。僕は隙間から外を垣間見ることしかできませんでした。
親と近所の人の会話を聞いていると、僕は存在していないってことになってるらしいです。だって一度、親は近所の人に「早く子供ができるといいですね、きっとお二人に似て優しい子ですよ」なんて言われてましたから。
家の外では大概、親は「優しい人」でした。
だから最初は「優しい人」っていうのはいつも怒鳴っていたり、人を叩いていたりする人だと思ってました。でも、こっそり窓の外を見て、小さな子が誰かを助けて「優しい子だね、ありがとう」って言われているのをみて……親は外では「優しい人」でも家ではそうではないと知りました……。
「——そうかい。話してくれて、ありがとね」
フロウが一つ溜息をついて、フィリーが慰めるつもりか、オズルの左手をぺろりと舐めました。
「……ああ、そうだ。
一応、この家での決まりごとを作っておこうか」
「決まりごと、ですか?」
オズルが問うと、フロウは当たり前だと言わんばかりにうなづきます。
「その一。勝手にお互いの部屋に入らないこと」
「お互いの部屋に勝手に入らないこと、ですね」
「そう。一応プレートみたいなのがあればいいかね……」
フロウはそう言うなり、手を振ります。
その時、廊下の方から、コトンコトン、と音がしました。
「これでプレートがかかったはずだよ。だからオズルは勝手にあたしの部屋に入らないこと。フィリーもだからね」
「はい」
「にゃーお」
フロウは二人(一人と一匹)の返事を書いて満足げにうなづきました。
「その二。勝手に外に出ないこと。ただし、庭だけは例外。庭は勝手に出てよし。その代わり草とかは勝手に抜かないこと」
「庭以外は外には出てはいけなくて、庭に出るときも草とかを抜いちゃだめなんですね?」
「そうだよ。外に出るといつ見つかるか分からないからね。オズルがあたしのところにいると分かったらどうなるか分からない。庭ならあたしの魔法で姿ぐらい消せるけども。庭にはたくさんの薬草や野菜があるから勝手にいじられると困る。だから歩くだけにするんだ。もちろん、フィリーもだ」
「分かりました」
「にゃーお」
「その三。勝手に倉庫の中を漁ったりいじったりしないこと。見るだけにしなさい」
「倉庫って、この隣の部屋ですか?見るだけならいいけど、漁ったりしてはいけないんですね?」
「そうだ。あそこには人間にとって危険なものもあるからね。フィリーは中に入るのもダメだ。好奇心旺盛な猫はすぐに棚を荒らすんだ。だからわかったか、二人とも」
「はい!」
「にゃーん」
最後にフロウは一言、重く真剣な口調で、
「魔女との約束を破ったら……何が起こるか分からないからね」
「……はい」
「……にゃ」
オズルとフィリーの返事も、自然と真面目なものとなりました。
いつの間にか、四人(二人と二匹)はスープを食べ終わっていました。
「とりあえず、今日は寝なさい。ベッドぐらいすぐに用意するから」
フロウは四枚のスープ皿と二本のスプーンをさっさと片付け、オズルとフィリーを追い出すかのように二人の部屋に追いやりました。そして、魔法でベッドや布団など、必要なものを出してやったのです。
「おやすみなさい、フロウさん」
「フロウでいい。おやすみ」
オズルもフィリーも、すぐに眠りにつきました。
「……さて、あたしたちも寝ることにしようか」
『そうね、フロウ。おやすみ』
フロウとルイーザも、すぐに眠りにつきました。




