遡る魔法
「はあ……」
お店を閉めた後、オズルは大きなため息をつきました。
『フィリップお兄ちゃん……本当はフィリップじゃないんでしょ』
サフィーの声が、頭から離れません。
「おっといけない。魔法の練習をするんだった」
オズルは、無理やりサフィーに会ったことを振り切って、窓一つない部屋に閉じこもると、時を遡る魔法の練習を始めました。
オズルは茶色のチョークを取り出し、床に大きな魔法陣を描きました。そして、ところどころに不思議な文字で呪文のようなものを書いていきます。文字に魔力を込めながら。
「よし、書けた」
オズルは全てを書き終えると、魔法陣の中央に立って、呪文を唱えます。
「魔法陣よ、時を巻き返せ。
時を遡り、真実を見せよ」
すると魔法陣は緑色に光り始め、そして——
——ついさっき、サフィーに会った時に戻っていました。
少し離れたところに、サフィーと自分がいるのが見えます。
『じゃあ、フィリップお兄ちゃんのこと、見てみようか?お兄ちゃんの過去を当ててみせるよ』
そう言ったサフィーは、オズルの目をじっと見つめて、そして言ったのです。
『フィリップお兄ちゃん……本当はフィリップじゃないんでしょ』
『えっ?』
『本当は……オズルお兄ちゃんなんでしょ?』
周りに配慮したのか、その声はとても小さな声でした。
『お父さんとお母さんに嫌がらせをされて、追い出されて、フロウっていう魔女の家で育ったでしょ?それで、お兄ちゃんは魔法使いになった』
『……』
『どう?違う?』
『……合ってる。本当にサフィーは分かる目を持つ女の子なんだね』
『すごいでしょ?』
サフィーは自慢げにそう言いましたが、オズルの表情を見たのか、その後こう言いました。
『大丈夫!他の人には言わないもん!』
『ナルさんにも?トーヤさんにも?』
『言わない!』
サフィーは自信ありげに胸を張りました。
『そう、忘れてた!あのね、お父さんのために薬を買いに来たの。お父さん、熱出しちゃって……』
母親と父親の名前を聞いたからか、サフィーは本来の要件を思い出し、薬を買って行きました。そしてサフィーは大声で「フィリップお兄ちゃんの薬屋さんに行ったんだよ!薬が欲しい人はみんな行ってみてよ!」と言って宣伝をしてくれました。
(それはありがたかったんだけどなあ)
過去の映像を見ながら、オズルは思います。
(本当に、ナルさんたちに内緒にしてくれるかなあ)
気がつくと、元の場所に戻って来ていました。自分の家の、窓のない部屋の中に。
しかし、違いはありました。
床に書いた魔法陣が、消えていたのです。
(……変なの)
不思議に思ったオズルは魔法書を見返しました。そして、思わず間の抜けた声を出していました。
「なあんだ、消えるものなんだ」
魔法書には、床に書いた魔法陣は過去から帰って来た時には消えていることが記されていました。
(過去に遡る魔法は使えたけど、これだけじゃまだ足りない。もっと昔に戻らないと、僕の過去は分からない。父さんと母さんが魔法使いかどうかも分からないままだ。もっともっと、練習しなきゃ)
オズルは一人、決意を固めたのでした。




