薬屋の開店
ある日、オズルは家の前に机を置きました。その上に置いたのは、魔法で作った薬です。ちゃんと種類ごとに籠で分けて、それぞれの籠に「風邪薬」「くしゃみの薬」「熱が出た時に」「かゆみ止め」などと書いた紙を添えて置きました。
そう、いよいよ薬屋を開くのです。
「薬屋を開くのかい?」
不意に声をかけて来たのは、無駄話が多いことで有名なおじさんでした。
「はい。何か入り用の薬はありますか?」
おじさんは薬を見回してから、
「この痛み止めっていうのは、腰が痛い時も効くのかい?」
と訊いてきました。
「ええ、効きますよ」
オズルがそう言うと、おじさんはうんうんとうなづいて言いました。
「じゃあこれをくれるかい。いくらかな?」
「四十ルーでどうでしょうか」
「よし、もらおう。ほい、四十ルーだ」
オズルがおじさんに「ありがとうございます」と頭を下げて礼を言うと、おじさんは例のごとく無駄話を始めました。
「いや、そんなに頭を下げないでおくれよ。
そういえばねえ。昔こんな感じで薬を配ってる魔女がいたんだよ。
フィリップは"フロウ・アイーネ"を知ってるかい?知らない?フロウはいい魔女だったんだよ。こうやって薬を配って、いつも村中をにこにこしながら回ってねえ。
だけどいつだったかな、もう……そう、十九年は経つんだねえ。それぐらい前に病気が流行ってね。ひっどい病気さ。フロウはそれに効く薬とやらを配って回ろうとしたんだけどね、あれ、本当は毒だったんじゃないかってみんなが言うんだよ。みんなを病気にさせるための毒じゃないかって。俺もそう思ったね。
失望したさ、あいつは悪い魔女だったんだ、ってね……」
その無駄話は、オズルにとっては無駄話ではありませんでした。
(フロウは、悪い魔女なんかじゃないよ!)
そう思っても、オズルは今、村に越してきたばかりの"フィリップ"ですから、そんなことは言えません。
「——おっと、失礼。話が長くなってしまったね。これは一日何回飲めばいいのかな?」
「一日二回、朝晩のご飯の後に一粒を水で飲んでください」
「ありがとね、フィリップ!」
それからはもうあっという間でした。『フィリップが薬屋を開いた』という話が、そのおじさんやナルによって広められ、薬を必要とする人がやってきたのです。そして数日経つとその薬はよく効くと噂になり、ある時には隣村からも薬を買いに来る人が出るほどでした。
完治することのない病気にも症状を抑えるのに役立ってくれると評判で、くしゃみの薬やかゆみ止め、痛み止めはよく売れました。
薬屋は繁盛し、それなりの利益も出るようになったのでした。




