引っ越し
「みなさん、こんにちは!」
「あら、えーっと、フィリップ!」
「久し振りね」
オズルはフィリップになってマディシナ村へとやってきました。"アンネ・フローラ"の家の前まで来たオズルは、近所の人々にこう挨拶をしました。
「母さんがしばらく前の村を離れられなくなっちゃったんです。だから僕、母さんに『先にマディシナ村に行ってきなさい』って言われて。だから僕、今日からここに住むことになりました。よろしくお願いします」
これは、オズルだけが村に住むための口実でした。
しかし、この口実により、フロウはマディシナ村にしばらくの間行けなくなりました。
"フィリップ"の母親である"アンネ"がこの村にいてはいけないからです。
それにフロウは「別の人物に変身して時々しか村に訪れない理由を作るのも面倒だ」と言い、村に行くのを諦めてしまったのです。
——もしかしたら、フロウがオズルを独り立ちさせたのは、「あたしはもう村にはいかない」と決別するためだったのかもしれません。
「人間を信じてはいけない」と、無理矢理にでも自分に信じ込ませるため——。
「あらフィリップ、いくつ?」
「今年で14になりました」
「まあ、猫だわ!猫飼ってたの?」
「ええ。フィリーと言います」
「可愛らしい子ねえ」
「困ったことがあったら遠慮なく言うのよ」
「ありがとうございます」
色々な人に矢継ぎ早に話しかけられ、オズルは家に入る前にヘトヘトになってしまいました。しかし、オズルは気を取り直して家に入ります。
「あ、しまった」
しかし、オズルはあることに気がつきます。
「家具が何にもない」
そう。家は空っぽで、何もなかったのです。
これでは本もしまえませんし、寝ることも、料理も、食事もまともにできません。
(雑貨類はキンダーヘイルで揃えないと。でも、布団とか、服とか、家具って……どこで、揃えればいいんだろう?)
オズルは昔村に住んでいたとはいえ、村のことを何も知りません。本物のよそ者ぐらい、知らなかったのです。なので、まだ表にいる人たちに尋ねてみることにしました。
埃のかぶったカーテンを開けて(これだけが唯一家にあるものでした)、あまりにも開けていなかったからか少し硬い窓を開くと、「すみません。家具屋さんってどこですか?」と問いました。
するとそこにいた人たちは口々にこう言います。
「家具は"家具屋のウラン"が一番だよ!」
「店主のギニアは優しいし、奥さんのユリーシャも美人だしねえ」
「ユリーシャは服屋をやってなかったっけか?」
「事情を知れば、もしかしたらただで色々家具をくれるかも知れないぞ」
村人たちによると、"家具屋のウラン"が一番いいようでした。しかも家具屋さんの奥さんは服屋さんをやっているというのです。こんなにいい話、なかなかありません。
(……行ってみようかな)
オズルは礼を言い、家具屋のウランに向かうことにしました。




