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オズルとフロウの魔法使い日記  作者: 秋本そら
開き始める隙間
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独り立ち

 オズルはフロウにもらった魔法書を読み、魔法の練習を積み重ね、どんどんと腕を上げていきました。

 フロウはオズルが困っている時にアドバイスをしたり練習に付き合ったりしました。

 ある時は「村に行ってくるから」と嘘をついて家を留守にし、盗人に変身して家に乱入することによってオズルに体力を吸い取る魔法を使わせたり(勿論そのあと、正体を明かして吸い取った体力を戻してもらいました)、わざと森の中で大怪我をして帰ってオズルに癒しの魔法を使わせたりしました。

 しかし、フロウは直接オズルに魔法を教えることをしなくなりました。そして、オズルが持っている魔法書に書いてある魔法を全て身につけたと知ると、自室にある魔法書を惜しみもなく渡し、独学で魔法を学ばせました。

 オズルがこの家にやってきてからもうすぐ一年と九ヶ月が経つという頃、つまり魔法使いになると決めてから九ヶ月で、オズルの実力はフロウに追いつくほどのレベルに達していました。

(何度も思うが……何という早さなんだろう。身につけるのも、応用できるようになるのも、早い)

 フロウはそんなオズルを見て、ある決意をしていました。


 ある日、フロウはオズルの自室の戸をたたき、「入っていいかい」と問いました。オズルの「いいよ」という声を聞いたフロウは、部屋の中に入ります。そして、魔法書を読んでいたオズルに話を持ち出します。

「オズル」

「なあに?」

「話があるんだ」


 実は、フロウはオズルと距離をとるようにしていました。

 理由は二つ。

 一つ目は、「そういう年頃」だからです。オズルぐらいの年頃になると、個人差はありますが、「自分ってなんだろう」と考えるようになったり、自立したいという思いを抱くようになります。なのでフロウは、オズルが一人でいられる時間を取るように配慮していたのです。

 二つ目の理由は——


「オズル。あたしはもうオズルに教えられることはない。だから……独り立ちしてみたらどうだ?」


 ——オズルに独り立ちをさせるためでした。


 魔法使いの間では、十三歳以上の魔法使いは「大人として認めること」とされていました。この辺りの村でも、十三歳以上は大人と認められます。オズルはその年に十四歳になりましたから、オズルは魔法使いの中でも村の中でも、大人だと認められる歳なのです。フロウと同等の実力があるのなら、もし他の魔法使いに会っても馬鹿にされることはないでしょう。

 フロウはオズルが独り立ちしても大丈夫なように、何度も料理を作らせて自炊ができるようにもしました。その他諸々の家事も手伝わせ、独り立ちしても大丈夫なようにしてきたのです。


「——独り立ち」

 オズルはその言葉を反芻します。

(——独り立ち)

「そうだ。どうする?」

 フロウの問いに、オズルは少し考えて、言いました。


「——独り立ち、する」


 オズルは実のことを言うと、村に住んでみたかったのです。

(僕は村のこと知らないから、もっともっと村のことを知りたい)

 そして、出来ることならマディシナ村に住んでみたいと願っていました。

(父さんや母さんは怖いけど、姿を変えていれば大丈夫。それに、優しい人たちがいるって分かったんだ。マディシナ村は、なんて言うのかな……あったかくて、僕は好きなんだ)

 でも、フロウにはマディシナ村に住む気がないことも分かっていました。

(だから、村に住むには独り立ちしなきゃいけない)

 勿論、不安もあります。

(一人で僕、生活できるかなぁ)

 しかし、好奇心も強いのです。

(村で暮らしてみたい。いろいろなことを知りたい)

 その好奇心が、オズルの背中を押しました。


 それから一週間、オズルは独り立ちをするために準備をしました。

(えっと……ランプと、魔法紙と、笛の万年筆と、あと、記憶のペンダントも。今までにもらった魔法書も纏めて……)

『オズル、大丈夫?手伝おうか?』

 声をかけてきたのは、オズルぐらいかそれよりも少し年上ぐらいの男の人の姿をしたフィリーでした。

 フィリーも使い魔になってからと言うものの、ルイーザに習いながら魔法の特訓をしたのです。なので今では、フィリーもルイーザのように様々なことができるようになりました。

「ううん、大丈夫。あんまり荷物は多くないからさ」

 オズルがそう言っているとフロウがやってきて、「これあげる。あたしには難しすぎてこの魔法はできなかった」と、持っていた魔法書を全てくれました。また、「これは独り立ちのお祝いだよ」と、小説を何冊か譲ってくれました。どうも一つのかばんで入り切りそうにはありません。

「……フィリー、このかばんに本を全部入れてくれる?」

『いいよ!』

 オズルは魔法で取り出したかばんをフィリーに渡し、フィリーはそのかばんにフロウにもらったばかりの本を入れていきます。


 そしてついに、オズルが独り立ちをする日がやってきました。

「マディシナ村に、行くのかい?」

「うん」

「……そうか。気をつけていくんだぞ」

「うん。ありがとう。

 ——またね、フロウ、ルイーザ」

 短く会話を交わし、そして。


 オズルはフィリーを連れて、独り立ちをしていったのでした。

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