村へ行く理由
「——こうしてあたしは大きくなった。だけど、魔法使いと人間が生きる時間にはずれがある。人間の方が先に歳をとるのさ」
『……ってことは、何かあったんだね?』
ルイーザの問いに、フロウはうなづきます。
「母さんが、早死してしまったんだ」
「母さんが死んだあと、父さんは母さんの故郷に行って、丁寧に供養をしたらしい。それ以来、父さんはマディシナ村に戻ってきていない。あたしが、25になったときのことだった」
『それは早いね……』
しんみりとした口調で二人は話します。
「それで、あたしはあの家を継ぐことになった。あたしは薬を作るのが得意分野だからたくさんの薬を作って村の人たちに配った」
『私にいっつも留守を任せてふらりと出かけるんだから、フロウは』
そう行って怒るルイーザにフロウは一言、
「それはごめんよ」
とだけ言って話を続けます。
「そうやって幸せに過ごしてきたわけだけど、あの事件が起こった」
『ああ……病が流行った、あの時ね』
フロウはうなづきます。
「あの時、あたしは痛感したんだ」
うっすらとフロウの目には、涙が光っていました。
「やっぱり人間は信じてはいけない、ってね」
「薬は毒だと言われたし、根も葉もないことを言ってあたしのことをみんな"悪い魔女"だって言った。あたしは味方をしてくれている人の言葉でさえ、信じられなかった。ナルやサリア、アルの言葉でさえも……」
フロウはナルが自分のことを語ったときのことを思い出しました。
(もう少しだけ、ナル達のことを信じることができていたらよかったのに。今でも悪い魔女じゃないって思い続けてくれているのに。でも……)
フロウは溜息を一つつきました。
「あたしは、誰も信じられなくなっていたんだ。だから、この小屋に帰ってきた」
『……そうよね。でも、なんでフロウはまた村に行くようになったわけ?二度と行かないと宣言していたのに』
「あたしにも、理由は分からなかった」
ルイーザの問いに、フロウはつぶやきました。
そして、いや、と言ってフロウは一言。
「多分、分からないふりをしていた」
「人間はたしかにくだらないことばかりするさ」
フロウは窓の方を振り返ります。
「罪のない人に罪をなすりつけたり、自分の子供を責任をもって育てなかったり。表ではいい人ぶっていても、本当は根が腐りきったような人もいるし。楽な方へとすぐ流されるし。だけどねえ……」
フロウは見えない月を見つめていました。
「だけどね、ルイーザ。やっぱりあたしは人間が好きなんだよ。あの村の人たちが、好きなんだ。嫌いなのに、好きなんだよ」
一つ溜息を吐いて、フロウは言いました。
「きっとそれが、村に行く理由さ」




