生い立ち
「満月の十五日前……か」
フロウはぽつりと呟きます。それを聞いたルイーザが一言、
『懐かしいわね』
「そうね」
いつのまにかルイーザは女の人の姿になって、フロウのベッドに腰掛けていました。
月のない空を見上げ、フロウは窓辺で苦笑いしながら話しはじめました。
「あたしはね、ずっと人間のことは信じちゃいけないって、思ってたんだよ」
「あたしが生まれたのは、マディシナ村の隣村。父さんが魔法使いだった」
『それは初耳だよ』
「話したことがないからね」
フロウはゆっくりと窓に背を向けます。その表情には、翳りがありました。
「隣村ではね、異質なものは邪魔者扱いされた。例えば、そう。魔法使いとかはね。だから、よく嫌がらせを受けたって、二人とも言っていたよ」
フロウは部屋を見まわします。
「だからあたしが二歳の頃、この小屋に家族みんなで越してきたんだ。ここは、あたしが育った家でもあったんだよ。あたしの部屋は、昔もここだった」
『なら、ここは住み慣れた部屋ってこと?』
「そうかもね」
少しだけフロウは少しだけ笑って、でもすぐに元の表情に戻って、話を続けました。
「あたしが六歳の頃、ここからマディシナ村の市街地に引っ越した。この小屋で三人暮らしというのが、無理な話だったのよね」
『たしかに大人二人と子供一人が住む広さの小屋じゃないわね』
ルイーザがそう言ってくすくす笑います。
フロウの表情が少し和らいだのは、気のせいでしょうか。
「この村の人たちは、あたしたちが魔女だと知っても差別などしなかった。あなた達がもし魔法使いの一家だとしても差別なんかしない、この村には千里眼の持ち主だっている、魔法使いだとしても、決して気にはしないよって……。みんな、なんて優しいんだろうと思った。しかも、同じ年頃の魔女にも出会っちゃったし。それがユリアだったんだけど」
『私と会ったのも、この頃よね』
「そう。お隣さんの猫が子供を産みすぎたからってことでもらった子猫が、ルイーザだった」
二人とも、先程とは打って変わって、懐かしそうな表情です。
「ウィリアム家とアイーネ家は本当に仲良くなったし、あたしとユリアは幼馴染になった。ウィリアム家が営むキンダーヘイルはあの頃からあって、キンダーヘイルはあたしのお気に入りになった。あと、フィリアンカ家が営むヘーメルオーストも。あの頃はまだ、ワップバーダはなかったわね」
フロウはくすくすと笑い、話を続けます。
「十歳になった時、あたしは正式な魔法使いになった。ユリアもね。だからあたし達はそれぞれの親に魔法を教わった。時々あたしとユリアは森の中で魔法を練習したっけ。失敗しながらも、楽しく魔法の練習が出来た」
『そうだったんだね。私はあんまり練習を見てなかったから、フロウから聞いた話でしか知らないけど……ああ、そうそう。オズル、もう瞬間移動の魔法を身につけたみたいよ』
ルイーザに突然別の話を突っ込まれたのと、その衝撃的な内容にフロウは目を丸くします。
「えっ?あたしは身につけるのに一週間かかったのに?」
フロウがオズルに本を渡してからまだ三日も経っていません。
「オズルは本当に飲み込みが早いというか……」
フロウは呆気にとられましたが、
「ああ、話が逸れたね」
そう言って、話を戻すのでした。




