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オズルとフロウの魔法使い日記  作者: 秋本そら
開き始める隙間
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支度

 ある日の夜。

 オズルは自室でフロウにもらったサファイアを見つめながら、フィリーに問いました。

「満月の日ってなんの日か分かる?」

『つかいまになるための、ぎしきの日でしょ?』

「そうだよ、フィリー。じゃあ、今日は?」

『たしか……満月の十五日前じゃなかったっけ』

「そうだよ。つまり、今日は満月の日の支度をする日。一緒にしようよ!」

『うん!』

 オズルはサファイアを握りしめて部屋を出ると、広い部屋の戸棚からガラスのコップを取り出します。

「行こう、フィリー!」

『今いくよ!』

 そんな二人の声を聞きながら、自室にいたフロウは呟きます。

「満月の十五日前、か」


 オズルはフィリーと一緒に森の中の泉に向かいました。

 その日はちょうど新月で森の中は真っ暗でしたが、夜目が利くフィリーがにゃんにゃん鳴いて(こっちだよ)と教えてくれましたし、ずっと暗闇の中にいると目が慣れてきたので、オズルは泉にたどり着くことができました。

 泉に着くと辺りが少し開け、星明かりが入ってきて少し明るくなりました。

「フィリー、星が綺麗だね」

「にゃ?」

 どうやらフィリーには星があまり見えないようです。と言うのも、フィリーは猫ですから、夜目は利いても視力は悪く、動かないものを見るようには出来ていないのです。

「あれ、見えない?」

「にゃー」

「でも少し明るくなったよね」

「にゃー」

 多少の例外はありますが、基本的には、何かの儀式やその準備の時には魔法を使ってはいけない決まりです。なので、今はフィリーの言葉が分からなくなっています。


「ねえフィリー」

「にゃ?」

「名前は忘れちゃったんだけど……月や星の光に当たった時だけ、銀色にきらきら光る花があるんだって」

「んにゃ」

「この森の中にもあるみたいだから、探してきてくれない?準備に必要なんだ」

「にゃ」

 フィリーはその不思議な花を探しに出かけました。オズルはその間に、泉にコップを浸してゆすぎ、一杯の水を汲みました。

 それから五分ほど経ったでしょうか、フィリーが一輪の銀色に輝く花をくわえて持ってきました。

「ありがとう、フィリー」

 オズルはそれを受け取ると、先程汲んだ水の中に、それをそっと入れました。水の中で銀色に輝く花は、とても神秘的で、二人とも声を上げずにはいられなかったのか、

「うわあ」

「んにゃー」

 と声をあげました。

 オズルはそのコップの中に、そっとフロウにもらったサファイアを入れました。

 そのサファイアは不思議なことに、ほんのりと青い光を放っているかのようにも見えました。

 二人はそれを見つめながら、しばらく黙りこんでいました。

 二人とも、言葉というものの存在を忘れ去ってしまったかのように、静かでした。


「——帰ろうか、フィリー」

「……にゃ」

 オズルはコップを持ち、フィリーを促します。

 今度はオズルも闇に慣れていて、周りが見えたので、フィリーの案内がなくても帰ることが出来ました。

 家に帰り着くなり、フィリーはこてりと眠ってしまいましたが、オズルは自室に向かうと、窓際にコップを置きました。

「お月さま、お星さま、この花と宝石に、力を与えてください」

 ひっそりと、そう言いながら。


 そしてオズルは、床で眠り込んでしまったフィリーをそっと抱き上げ、自分のベッドに入れてやって、自分も一緒に眠りについたのでした。

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