突然の応用
翌日。
フロウは腕に包帯を巻いたまま、オズルと共に街に出ました。
「おはよう!」
「おはよう、アンネ!あら、フィリップも一緒ね」
「おはようございます」
もちろん小さな村のことですから、みんな昨日のヘーメルオーストでの事件を知っています。
「アンネ、大丈夫?」
「ええ。怪我もすぐに治りそうです。フィリップがすぐに手当てをしてくれたから……」
"フィリップ"が手当てをしてくれた、というのはあながち嘘ではありません。
包帯はしていますが、怪我は治っていました。なぜならオズルが癒しの魔法をかけたからです。また、これは村の人たちには言えませんが、オズルが魔力を分け与えたのでフロウの魔力もすっかり元どおりになっていました。オズルの魔力も言うまでもなく、戻っています。
「よかったわ……。もし深い傷で血が止まらないとかだったら恐ろしかったわね」
「ええ、浅めの傷でよかったです」
フロウはそう答えながらも心の中では、
(かすり傷でも、魔法使いにとっちゃ大惨事だけど)
そんなことを考えていました。
「どこに行くんだい?」
「ヘーメルオーストに。ナルさんを心配させているかもしれませんから」
「その方がいいよ。でも無理しないでね」
「ええ、勿論です」
フロウは村人たちから次々とかけられる言葉に、一つ一つ返していきます。
「フィリップ、だったっけ?お母さんが無理していたらすぐに止めてあげなよ」
「分かりました!」
オズルも"フィリップ"を演じきります。
ヘーメルオーストに向かって歩き始めた時、フロウはオズルに、心の中に声が届く魔法を使って言いました。
「もしあたしの正体がフロウだと分かったら、みんな、いい気味だと思うのかねえ……」
「……」
「こんにちは、ナルさん」
「あの、こんにち——」
「アンネ!大丈夫だった?」
オズルの挨拶は、ナルがフロウに抱きついた瞬間に叫んだ声で、掻き消されてしまいました。
「あの、苦しいですよ、ナルさん……」
「ナルさん、母さんも完全に怪我が治ったわけじゃないので……」
フロウとオズルに同時に咎められ、ナルは慌てて離しました。
「あら、ごめんなさい……。でも、本当によかったわ!とっても不安だったのよ。怪我は大丈夫かしら、って。怪我させてごめんなさいね。昨日は本当にありがとう!」
ナルは本当に嬉しそうに話します。
「こちらこそ、心配させてごめんなさい。それに、悪いのはナルさんじゃなくてあの男の人ですから、ナルさんは気にしないでくださいよ。それより、今日のおすすめは?」
フロウが問うと、ナルは申し訳なさそうに言いました。
「……ごめんね、アンネ。昨日の騒ぎのせいであまり新しい薬草が入荷できてないのよ」
「あら、そうですよね……。ごめんなさい。ナルさんも昨日は大変だったのに」
フロウも申し訳なさげに言うと、ナルは首を振りました。
「いいえ、気にしないで」
フロウはこの間使ったカモミールとタイムを買いました。勿論、チャも。
「それじゃ、また来ますね」
「ええ。待ってるわ」
フロウとナルがそんな会話をしている頃、オズルは窓の外をちらりと見て、道端に咲いている花を思い浮かべ、手を背に回して取り出しました。そして、花に癒しの力を込めてから、手渡します。
「ナルさん、これ!」
「あら、素敵ね!くれるの?」
オズルはうなづいてみせます。
「ありがとう、フィリップ。どこで摘んだの?」
「さっきここに来る前に、道端で見つけたんです」
オズルの目には、昨日の事件のせいか、ナルが少し疲れているように見えました。なので、どうにかしてナルを元気付けられないかと考えたのです。
花に癒しの力がこもっていることに気付いたフロウは、再び舌を巻きました。
(……魔法の応用か。ここまで出来るなんて、吸収が早いからなのか……?)
「いい香りね。ここに飾っておくわ。ありがとう」
ナルはその花を花瓶に挿しました。
「ありがとう、二人ともまたね!」
「また来ますね」
「さようなら!」
こうして、一人と二人は別れを告げました。




