眠っている間に
「……とにかく、何があったのか説明してくれないかい?何が何だかよく分からなくってね」
「うん」
フロウに促され話そうとしましたが、オズルは何を思ったのか、指を一つ鳴らしました。
フロウはなぜオズルが指を鳴らしたのか、すぐに察しました。
(誤認の魔法……!)
声は聞こえないという誤認をさせる魔法。
確かに、内容的には村人に聞かれたらまずい話ではありました。
(いつの間にこんなに頭が回るようになったのか。しかも、この魔法はあたしは直接教えてない。きっと、本で学んだ魔法だろう。オズルは成長が早い……)
フロウがそんなことを思っているうちに、オズルは話し始めました。
——本を読んでいたら風の精霊さんが来て、フロウの六芒星が傷ついたって教えてくれたんだ。僕、慌てて家を飛び出したんだ。本を持ったまま。急いで走って行って……村に着いたら、みんな学校はどうしたのって言うから、今日は早く終わる日だったからもう終わったよ、母さんがこの村に来てるって聞いたから来たんだって言ったの。そうしたらみんな、それを信じてくれたよ。それで村の人たちはね、アンネは今家にいるよ、怪我をしたみたいなんだって言ってて……僕、お礼を言ってこの家まで走って来たんだ——
(——とりあえず、あたしがついた嘘は無駄にはならなかったわけだ)
フロウは目を閉じ、浮かび上がる情景を見ながら、そう思いました。
再び、オズルの声に耳を傾けます。
——フロウ、ワンピースの裾を破って腕に結んでたでしょ?それは良くないと思って、魔法で包帯を出したんだ。それで布の切れ端を解いて、包帯で結び直そうとした時——
フロウは、浮かび上がる情景の中の自分が、大変うなされていたことに気付きました。汗をかいて、息を粗く吐きながら、うわ言を言っていたことに。
——フロウ、「あたしは、もう魔女じゃないんだ」って……うなされながら、言っていたんだよ。「あたしにはもう、何も出来ない」って。なんか、それを聞いていると、僕まで苦しくて。その時、フロウの消えかかった六芒星が目に入って、持って来ていた本のことを思い出したんだ——
(持って来ていた、本……まさか、あたしがあげた、魔法書?)
フロウはどきりとしました。
(そうだとしたら、あの魔法のことも書いてあるはず……!)
——ちょうど今日、六芒星に傷をつけてはいけないっていうのを読んでいたんだ。それから、魔力を分け与える魔法についてね。それは僕にとってすごく危険だっていうのは分かっていたけど、かけずにはいられなかった——
(——やはり、あの本か)
フロウは溜息を一つついて、話の続きを聞きます。
——僕は、小さな箱を思い浮かべたんだ。このぐらいの。その箱いっぱいに魔力を入れて、その分だけの魔力を分けるのをイメージして、言ったんだ。「この者に、再び、魔力を」って——
オズルはこのぐらいの、と言いながら五センチ四方の立方体を描いて見せました。フロウはその時だけ、少し目を開けて、ちらりとその方を見ました。
フロウは内心、感心していました。
(箱をイメージしたのは、魔力の流れ込みすぎを防ぐためか。何でこんなに頭が回るんだろう?)
——箱の中にある魔力の分だけ分けた後、癒しの魔法をかけたんだ。だってフロウ、熱がすごく高かったし、少し咳もしていたし……多分、精神的にもきつかったんじゃないかと思って……。その後、包帯を巻き直したんだ——
(確かに、眠りにつく前や眠っている時よりもだいぶ楽だ)
心なしか、心まで少し軽くなっているような気がします。オズルの癒しの魔法のおかげでしょうか。
「——っていう訳なんだ。フロウ、大丈夫だった?」
「……別に、何ともないさ。オズルこそ、あの魔法は怖くなかったかい」
あの魔法とは、もちろん魔力を分け与える魔法です。
「うーん、勢いが速くてびっくりはしたけどね。でもこれだけって決めていたし、そこまで怖くはなかったよ」
フロウは呆れかえりました。
「あのねえ……もう少し後先考えられないのかねえ……。もしこれだけって決めていても決めていたところで止まらなかったらどうするつもりだったんだい?」
オズルは首を傾げます。
「うーん……その時には手を離すよ。そうすれば止まるでしょう?」
「まあ止まるけど……」
フロウは言葉を続けようとしましたが、何を言えばいいのか分からなくなり、一言。
「……まあ、止まるな」
しばらく間が開いて、フロウは呟くように言いました。
「——ありがとう、オズル」




