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オズルとフロウの魔法使い日記  作者: 秋本そら
開き始める隙間
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悪夢

 フロウは、夢を見ていました。

 十年近く前の、悪夢を。


 あちこちにに傷を負ったユリアが叫びます。

「フロウ……早く逃げて!」

「そんなこと、できないわ!」

 フロウは叫んで、結界を張りました。

 薬草を摘むために森の中を歩いていた時、隣村の人たちが現れ、「森の中のものは俺たちのものだ」と主張して、薬草を摘んだ二人に「その草をよこせ」と命令しました。しかし、実際はまだマディシナ村の境界線の中なので、二人は拒否しました。その結果、二人は襲われたのです。

 フロウは無傷でしたが、ユリアはあちこちに傷を負いました。一番の致命傷は、左の頰——緑色の六芒星の上に傷を負ったことです。

 そのせいで、ユリアは魔力を失いかけました。


 結界が張られたと知り、隣村の人たちは去りました。フロウは結界を解き、ユリアの怪我を癒しの魔法で治してあげました。

 しかし、ユリアは嘆きました。

「ああ……せっかくあの子に守りの(まじな)いをかけたのに。……これで呪いは解けてしまったかも。あの子を、守ると決めたのに……!」


 あの子、というのはユリアの子供です。

 実は、ユリアには夫と一人息子がいたのですが、夫に不倫をされたため、ユリアは離婚したのでした。

 ユリアが夫に不倫をしたことを確認すると逆切れされ、ユリアは夫に暴力を振るわれました。そして、無理やり一人息子を連れていかれてしまったのです。

 これではいつか、息子が虐げられるかもしれない、と守りの呪いをかけていたのです。夫には内緒で。

 しかし、魔力を失いかけたその時、その守りの呪いが解けてしまったのです。

 ユリアは、その子がどこで何をしているか、知りません。


「フロウ……私、もうだめだわ。魔女ではなくなってしまう」

 ユリアの頰にある緑色の六芒星が、どんどん薄れていきます。魔力が失われると、六芒星は色が薄くなり、消えてしまうのです。

 それを見たフロウは、咄嗟に叫びます。

「ユリア……しっかりして!あたしが魔力を分けてあげるわ」

「——そんな!」

 ユリアは勿論、その魔法が危険なことを知っています。慌てて断ろうとしました。

 しかし、フロウはユリアの声などお構いなしに、魔法を使いました。迷いもなく。


 ユリアの六芒星があった場所に手を触れ、呟いたのです。

「この者に、再び、魔力を」

 その時、フロウは魔力を失う恐ろしさを知りました。自分の魔力が、確かに流れ出ていくのです。勢いよく。

 フロウは慌てて手を離しました。

 ユリアの六芒星は、元に戻っていました。


「フロウ……ありがとう。私はまだ、魔女でいられるみたいね」

「気にしないで。さ、家に帰りましょ」

 フロウは何事もなかったように言いましたが、心はまだどきどきしていました。

(あの勢いで魔力が流れ出ていくのなら……魔法を使う人の方が魔法使いではなくなるという話も、あながち嘘ではないかもしれない)


 目が覚めると、心配そうにフロウの顔を覗き込むオズルがいました。

「ああ、オズル……」

「おはよう、フロウ。大丈夫?」

「ああ、なんとか……」

 フロウはそう言いながら新たに巻き直してくれたらしい包帯を外していきました。

(——きっとこの下にはもう、何もない)


 フロウは目を疑いました。

「……どうして」

「僕が、魔法を使ったんだ」

 オズルの声を聞きながら、フロウは信じられない思いでそれを見つめました。

 眼の色と同じ、湖のように青い六芒星を。

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