フロウの家
中に入ると、すぐそこが少し広めなダイニングキッチンでした。
ダイニングとしてだけではなくリビングとしても使える場で、フロウはそこを広い部屋、と呼んでいました。実際、そこはこの小さな家の中にある部屋にしては、広い方だったのです。机の上にはなにやら怪しいものばかり置かれています。
「……まあ、とりあえずここを片付けないと……人間には危ないものばかりだからね。
オズルとフィリー、あの部屋が空き部屋だからそこを自由に使いな。あと、欲しいものがあればあたしに言ってくれればできる限り用意するわ。
というわけで二人はそこに引っ込んでて頂戴!あたしはここを片付けるんだから」
「分かりました。行こう、フィリー」
フィリーは、にゃあ、と鳴いてオズルについて行きます。
「……さて」
オズルとフィリーが部屋に入ったのを確認して、フロウは広い部屋の片付けを始めました。
広い部屋を出ると、左の方に廊下が伸びています。
フロウが荷物を持って廊下に出ると、すぐ目の前にオズルとフィリーの部屋があります。その部屋のそばには勝手口もあります。
オズルたちの部屋の隣にあるのがフロウの部屋。部屋の大きさはオズルたちの部屋と同じくらい、広い部屋の半分くらいです。
そしてフロウの部屋の向かい、広い部屋のとなりにあるのが物置でした。両手が塞がっているフロウは小声で呪文を唱え、扉に触れることなく扉を開けて中に入ります。
物置には、魔女の間に伝わる秘薬の材料や、魔道具、魔道具の材料などといった、フロウにとっては欠かせないものばかりがしまってあるのです。しかも、かなり綺麗に。
例えば、宝石。
宝石は魔道具の材料になるものですが、何しろたくさんの種類があるので、整理整頓しておいています。
(ほら、あたしの腕の中にある宝石たち!元いた場所にお戻りなさい)
フロウがそう念じるとフロウが持っていた宝石たちは次の瞬間には腕の中から消え、棚の中に戻っていました。きちんと整理整頓されて。
「あとは、この薬草よね」
薬草は、乾物は宝石と同様にしまっています。もちろん、宝石とは別の棚で。まだ植木鉢に植えられているものは物によって日が当たる窓際だったり、日陰だったり、月が当たる窓側だったりと場所は違うものの、整理整頓して置かれています。
(あたしの腕の中にある薬草たちも、元いた場所にお戻りなさい)
フロウは再び念じます。これで薬草も元あった場所に戻ったはずです。
フロウは部屋の外に出て、自室へと入りました。
フロウの自室には本棚が大量にありました。本棚にはぎっしりと本が詰まっているのです。魔法書は勿論、ファンタジーにミステリー、さまざまなジャンルの文芸の本が置いてあるのです。そして、たくさん本が入りそうな本棚があるにもかかわらず床に置かなければならない本が出てくるほど、フロウは本をたくさん持っていて、好きだったのです。
持っていた魔法書を机の上に置き、ふぅ、とフロウが一息ついた時、その魔法書の上に飛び乗ってきたものがありました。
『フロウ、お隣が騒がしいけどお客様?』
「まあね。人間の男の子さ。あとオスの黒猫。今日からここで暮らす子たちだよ。怖がらせたりしたらだめだからね」
『へえ、フロウが人間の子を拾うなんてねぇ』
魔法書に飛び乗ってきた黒猫——フロウの使い魔が面白そうに言うと、フロウはぴしゃりと「お黙り」と言いました。
『ごめんよフロウ、悪気はないんだよ?』
「まぁ、そうだとは思ったけど。どうせあたしをからかいたかったんだろう?」
『まあね』
くすくす、と黒猫は笑い、フロウは思わず溜息を一つ。そして本棚に向かいながら、
「まあいい。ルイーザ、オズルとフィリーに挨拶しておいで」
『オズルとフィリー?ああ、男の子とオスの黒猫ね。分かったわ、行ってくる』
ルイーザと呼ばれた黒猫は興味津々といった感じで部屋を出て行きました。
騒がしくなりそうだ、と考えながらフロウは、本棚から薄い本を引っ張り出し、めくり始めたのでした。




