夜の儀式
満月の日がやってきました。
「オズル。今晩、儀式をしようか」
「魔法使いになるための?」
「そうだ。それ以外に何がある?」
フロウのその問いには答えるまでもありません。オズルは嬉しいのか、自然と笑顔になっていました。
「いいかい。今日の夜、森の中の泉に行く。そこで儀式をする。まずは六芒星の痣をつけるもの。そして、正式な魔法使いになるためのものだ。分かったね」
「うん」
「今日一日は、魔法を使わないこと。魔法の練習も、今日は無しだ」
「分かった」
一通りオズルと話し終えると、フロウはフィリーの方を見ました。
「フィリー、使い魔になりたいんだって?」
『うん!』
「二度と普通の黒猫には戻れないよ?」
『うん。分かってる』
「それでもいいのかい?」
『うん』
オズルは今日は魔法が使えないので魔法をかけてはいませんが、フロウが魔法をかけたらしく、フィリーの言葉の意味が分かりました。
どちらにしろ、フィリーの目には決意の色が見えました。その色は揺らぐことがありません。
「……分かったよ。ただし、使い魔になるためにも儀式が必要でねえ。次の満月にならないと出来ないよ。今日はついてくるだけならいいけど」
『分かった』
フィリーが答えると、フロウはオズルに向き直り、言いました。
「本を読んで分かってるとは思うけど、フィリーの儀式はオズルがやるんだよ」
「うん」
夜になりました。フロウが静かに言いました。
「行くよ、オズル」
「……うん」
オズルもなんとなく、静かに答えます。
そして二人は気付きました。フィリーが見当たらないことに。フロウはやれやれ、というかのような声で、
「――フィリーはどうするんだ?」
するとフィリーが慌てたような声で、
『ああ、まって!今行くから!』
といいながら駆けてきました。それを見たオズルは、思わずくすくすと笑ってしまいました。
『ひどいよ、オズル。ぼく、いそいできたのに!』
「ごめん、フィリー。でも、つい」
そんな二人にフロウは呆れたように一言。
「ほら、二人とも置いていかれたいのか?」
「ああ、今行く!」
『ぼくも!』
着いた場所は、森の中にある泉でした。
「ここでこれから儀式をする」
フロウの言葉にオズルはうなづき、フィリーは短く「にゃ」と鳴きました。どうやらフロウは、フィリーの声にかけていた魔法を解いたようです。
「まず上の服を脱いで、これを泉の水に浸して、それで体を拭きな。終わったらあたしに背を向けて声をかけること。あたしはオズルがいいって言うまで後ろを向いてるから安心しな」
フロウはオズルにタオルを渡して言いました。そしてその言葉通り、後ろを向きました。オズルは言われた通りにタオルを泉の水に浸し、それで体を拭きます。泉の水は大変冷たかったのですが、オズルは寒いのを我慢して拭きました。
「——拭けたよ」
フロウに背を向けてそういうと、フロウはオズルの方を向いて、何か言おうとして——。
——フロウは、絶句しました。
「オズル……」
「なあに?」
不思議そうなオズルの声に、フロウは信じられない、というような声で、一言。
「オズル……お前は、生まれつきの魔法使いだ」




