薬
フロウはその頃、自室でくしゃみに効く薬を作っていました。
(別にあって困るものじゃないからねえ。なくて困ることはあるだろうけど)
今日は常備薬にするためのものと、次に村に行くときに持っていくためのものを作るつもりです。
『いつも薬まで持ってきてくれてありがとうね、アンネ。アンネのおかげでみんな元気よ』
明るく笑顔で礼を言うナルの声が聞こえたような、そんな気がしました。
(なんでこんなに飽きずに薬を作っているのかねえ。しかも、あんなことをしてきた人達の為に……)
フロウは、植物や自然と自分の魔力の融合の魔法を得意としていました。その中に薬を作る魔法があります。というわけで、フロウは魔法使いの間では薬づくりを得意とする魔女ということで有名でした。
昔、まだマディシナ村に住んでいた頃は、よく村人のために薬を作っては、家の前に机を置いて種類ごとにまとめて配っていたのです。もっとも、フロウ自身は村中を歩き回るのが好きでしたから、薬の番はルイーザに任せていたのですけれど。ルイーザは「面倒くさい」と言いつつも女の人に変身して、薬が風に飛ばされたりしないように、また、誰かが来たらどの薬がどんな効能を持つのか説明するために薬の番をしていたのでした。
フロウの薬はよく効くと評判でした。
しかし。
(でも、あのひどい病気が流行った時、薬たちは毒じゃないかと疑われた。毒を配って人々を病気にしたのではないか……とね)
フロウは目を閉じました。今でもありありと浮かびます。
毒だと疑われ、人々に踏みつけられて無残な姿になった薬たちが。ごみと一緒に捨てられて行った薬たちが——。
「……少しばっかし、昔のことを思い出しすぎたかねえ。——よし、やろうか」
材料は全て揃えていました。あとはそれらを混ぜ合わせ、魔力を込めるだけです。——と言っても、かなりレベルの高い魔法ではありますが。
フロウは薬にする薬草たちをまずは細かくしていきました。まだ混ぜずに薬草ごとに分けて置いてあります。
「……えーっと。カモミールに、ネトルを混ぜて」
どちらもくしゃみに効く薬草です。
「……香りや味は他の村から入ってくるお茶に似ているよなぁ。確かこの村でも人気だったはず」
そのお茶の名前、確か緑茶とか言わなかったっけ、とフロウは考えながら、今度はチャを混ぜました。ほんの少しだけ。実はチャも、くしゃみに効く薬草なのです。
三つの薬草を混ぜて薄い布に包んで器に入れると、その上から熱いお湯をたくさん注ぎました。ふんわりと漂うお茶の香りが、いい香りでした。
(あとで緑茶でも淹れようかね)
フロウはふと、そんなことを考えたのでした。
薬草から色が抜け切った頃、フロウは布に包まれた薬草を取り除きました。
さて、いよいよ魔法の出番です。
フロウはそれに向かって、呪文を唱えます。
「ここに、人を癒す力を」
するとどこからか、光の粒が集まって来て、それの中に溶け込んでいきました。
薬草と人の身体や心を癒す魔法を組み合わせると、それはよく効く薬となるのです。
その後、白い粉を入れてかき混ぜていきました。すると、少しずつそれは固まってきました。程よい固さになったところで、それを少しだけ取って手で丸くしていきます。それを何度も何度も繰り返して、沢山の粒を作りました。それらを乾かして、薬の完成です。
フロウは勿忘草を摘んできて、風の精霊、ウィル・ソーヤの名を呼びました。そして、薬を乾かすように頼んだのです。
ウィルは「お安い御用さ」と言って、すぐに乾かしてくれました。そして二人は約束の言葉を口にして別れました。
「……さて、昼ごはんでも作ろうかね」
薬を紙袋に分け終わった頃、フロウはぽつりと呟きました。緑茶を淹れようとずっと思っていたので、昼ごはんの時に緑茶を淹れて、それに合うご飯を作るのもありかもしれない、と思いました。
「緑茶に合う料理か……悪くないかもな」




