表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オズルとフロウの魔法使い日記  作者: 秋本そら
前進して、振り返って
30/74

信じ続ける人

 その頃、フロウは。

「あの、ナルさん」

「なあに?」

 ヘーメルオーストにいました。


 フロウは薬草を買い、手作りの薬を「私の村に昔から伝わる薬を作りましたので、体調の悪そうな方にお渡ししてあげてください」と言ってナルに渡しました。ここまではいつも通りなのですが、その後、こう話を切り出したのです。

「あの、ナルさん」

「なあに?」

「この村に来てからよく、"フロウ・アイーネ"という名前を聞くようになったんです。彼女は一体……何者なんですか?どんな人なんですか?」


 自分のことをナルに訊こうと思った理由は、オズルの言葉でした。

『少しずつ、自分の過去と向き合えるようになりたいんだ』

 前回村に来た時、辛い記憶を持っているはずのオズルが、恐れながらも決意をし、言った言葉でした。

 そのオズルの姿を見て、自分も過去に向き合ってみようと思ったのです。


 ナルは動きを止め、一言。

「フロウは、とてもいい魔女よ」

 とても優しい、笑顔でした。


 フロウは少し意外に思いました。

 ナルは、最後までフロウを良い魔女だと言ってくれた数少ない人でしたが、フロウが村を去る頃には、もう心はひねくれ始めていました。

(良い魔女だと思ってる、とか言って、本当は心の中では他の奴らと同じように、悪い魔女だと思ってるんだろ)

 そう思って、ナルの言葉も信じませんでした。

 もっとも、そんなことは一言も言いませんでしたが。


 花瓶に挿してある花を一輪取り出しました。

 その花を見たフロウは、はっとしました。

 それは、勿忘草でした。

「本当に素敵な人だった。たまに私たちにいたずらをしたこともあったけど、貴方みたいに薬を作って村の人に配ったり、困りごとを魔法で解決してくれたり。私も魔法が使えたらいいのにって、何度も思ったわ」

 昔のことを懐かしそうに話すナルの目は、嘘をついているようには見えません。


 フロウは戸惑いの表情を浮かべました。

 それは本当に戸惑ったからであり、戸惑いの演技が必要だったからでもありました。

「村の人たちは、フロウさんのことを悪く言っているような気がするのですが……」

 フロウがそう言うと、ナルは唇を噛みました。

「……あのね、アンネ。昔はね、みんなフロウのことが大好きだったのよ。だけど、とある自然現象の所為で、フロウは誤解された。勝手に、皆が悪い魔女呼ばわりをするようになったのよ」


「アンネなら知っている?病気の原因は小さな生き物であることを」

「ええ、知っています」

 フロウは何故そんな問いを、というような表情をしてみせました。

「村の外に出ると、このことが一般常識であることが多いわ。だけど、この村の人たちはそのことを知らない人がほとんどよ。私は昔、別の村に住んでいたから知っていたの。だから、フロウのせいじゃないって、分かっていた」

「それって……まさか」

 フロウがそう言うと、ナルはうなづきました。

「病気になりやすい季節の変わり目に、病気が流行ったの。悪化すると死に至ってしまうような、酷い病気が。そして、それをフロウのせいにされてしまったの」

 フロウは何も悪くないのに——。

 ナルはそう呟きました。


「少なくとも私たちフィリアンカ家やアル、そしてサリアとユリアはフロウのことを信じていた。私とユリアは小さな生き物の存在を知っていたから信じていた。アルやサリアは知らなかったけど、フロウを信じ続けていた。でも、ほとんどの人がフロウを疑った。そしてある日、彼女の家を焼いてしまおう、と誰かが言い出した。私たちは反対したわ。私とユリアはずっと言い続けたの。病気の原因は小さな生き物だって。でも、誰も信じてくれなかった。私には何も、出来なかった……」

 ナルの言葉を聞きながら、フロウはその日のことを思い出しました。


 村人たちは、自分の言葉が言葉の精霊を操っていることに気付かずに、陰口をたたき続けていました。いくら影で話していても、銀色のナイフがフロウに襲い掛かっていることも知らずに。

 フロウは操られた言葉の精霊を正気に戻す方法ぐらい、知っていました。しかし、村中で悪口が囁かれているものですから、言葉の精霊もたくさんやってきます。正気に戻しきれなかった言葉の精霊に傷つけられていきます。


 その時でした。

『ねえフロウ、大変だよ!』

 名を呼んでもいないのに風の精霊が現れ、フロウに半ば叫ぶようにして言ったのは。

『村の人たちが、この家を燃やすって言ってるよ!早く逃げなきゃ』

「えっ!……分かった、ありがとう!」

 フロウは前もって、準備をしていました。

 何かあった時にこの村を出ても大丈夫なように、森の奥に建っていた小屋に、あらかたのものはもう移動させていました。この小屋が今のフロウの家であることは、言うまでもないでしょう。

 フロウはほとんど空になった家の中に残る小物をまとめて、家の裏口からこっそりと逃げ出そうとしました。


 しかし、その時。

 最後に家を見ておこうと振り返った時、家の中に置いていた、一つの籠が目に入りました。

 中に戻り、手に取ります。

「この薬……」

 籠の中身は、薬でした。

 フロウが魔法で作った、流行り病に効く薬です。その日のうちに村の人に配ろうと思っていた薬でした。

 しかし、今の村の人たちに薬を渡しても、きっと飲んではくれないでしょう。きっと、「病を流行らせた張本人が、何を今更」と思われるでしょう。そう思ったフロウは、薬を家に置いていこうと思ったのです。この家とともに、燃えてしまえ、と。

 しかし、それは不可能でした。

「……やっぱり、置いていけないね」

 フロウは籠を持って、裏口から逃げ出します。

 そして、魔法で作った薬を渡すため、フロウはあるところに向かいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ