もう一人の魔女
「——ごめん。拾い子なんだけどさ、なんか嫌な過去があるらしくってね。あーあ、もう固く目をつぶって開けようともしない」
フロウはオズルを椅子に座らせながら言いました。ユリアは心配そうに言いました。
「こちらこそごめんなさい。やっぱり"記憶のペンダント"は、人間にとっては力が強すぎるようね。魔道具を店舗に置くのが間違いだったわ。その子、大丈夫かしら」
「ペンダントは今はあたしが持ってるから大丈夫。あとは本人次第」
そこは、キンダーヘイルの奥にある、ユリアの家でした。ダイニングキッチンなのでしょうか、流しや水道があり、丸いテーブルには椅子が四つついています。
不意に、ユリアは何もないところから器に入れたクッキーを出してみせました。
「もし良ければ食べて」
「またクッキー?」
フロウがうんざりしたようにいうと、ユリアはいたずらっ子ぽく笑って、
「フロウの好きな、生姜入りクッキーよ」
「またかい!」
そう言いながらも好物の誘惑には勝てないのか、クッキーを早速つまみ始めました。
「……悔しいけど、美味しいわね」
「フロウにそう言われると、作りがいがあるわ。フロウはコーヒー飲む?」
「いつも言ってるがね、こういう時は紅茶に限るだろう?」
「そうだったわね。その子はホットミルクを飲むかしら?」
「ああ、飲むさ」
「分かったわ」
ユリアは自分のコーヒー、フロウの紅茶、オズルのホットミルクを作るためにキッチンに向かいます。
『ユリア、お客様?……ああ、フロウね。お久し振り』
そこに現れたのは、美しい白狐でした。眼が金色であることも、美しく見える理由でしょうか。
「久し振りね、マラム」
「あら、マラム。何かいる?」
マラムと呼ばれた、人語を操る白狐は澄ました顔で、
『お水でいいわ』
と言うと、ツンとしてその場に立っていましたが、オズルを見つけるなり『まあ』と声をあげました。
『この子はどうしたの?』
「あたしの拾い子。嫌な過去を思い出しているらしくってねえ、こちらからの声が届かないみたいなんだよ。固く目を閉じちゃってるし、見えているのも過去の幻想だろうね。多分大丈夫だとは思うんだけど」
それを聞いたマラムは、不安そうな顔でオズルを見上げています。
「——あ、あれ?ここは?」
オズルがようやく現実に戻ってきたようです。あれだけ固く閉じられていた目も、ちゃんと開いています。
「私の家よ。ホットミルクはいかが?生姜入りクッキーもどうぞ」
ユリアに差し出されたホットミルクはとても美味しそうでした。
「ありがとうございます。いただきます」
オズルはあちち、と言いながら、そのホットミルクを美味しそうに飲みました。そしてマラムに気付いたのか、
「わあ、綺麗な白い狐さん!こんにちは」
と挨拶しました。
『こんにちは。私は白狐のマラム。マラム・ウィリアムよ。ユリアの使い魔なの』
「使い魔?使い魔ってことは……」
その時、ユリアが紅茶とコーヒーを持って机にやってきて、紅茶とコーヒーを机に置きました。
「そう。私は魔女なの。
改めまして、魔女のユリア・ウィリアムよ。よろしくね」




