異変
「次は"キンダーヘイル"に行きましょう。雑貨店だからフィリップが欲しいものもあるかもしれないわ。今日は特別、好きなものを選んでいいわよ」
「いいの?やったあ!」
フロウとオズルは相変わらず演技を続けていました。演技なのにもかかわらず、どちらも演技には見えません。
「キンダーヘイルって、なんだか可愛い名前だね」
「遠い国の言葉で、子供の魔法使いっていう意味があるらしいわよ。噂話だけどね」
そんな会話をしながら、二人は店内に入ります。
「こんにちは!」
フロウが声をかけると、奥から女の人が出て来ました。
「あら、アンネ!久しぶりね。その子は?」
「私の一人息子、フィリップよ」
「初めまして」
「初めまして。私はユリア・ウィリアムよ。フィリップ、よろしくね」
そう言って微笑む彼女は、とても優しそうでした。
(……あれ?)
オズルは何か引っかかるものがありました。
(……この人……なんだか、懐かしい)
記憶の片隅に、引っかかっているような。
(あの頃、窓ガラスから見ていた景色のどこかに、いたのかも)
本当にそうでしたでしょうか。オズルはよく思い出せませんでした。
「ほら、フィリップ。何がいい?」
フロウの声にはっとしたオズルは、店内を改めて見まわします。時計や食器、筆記用具におもちゃ、置物……。店内にはありとあらゆるものが置かれていました。
「あ……これ、綺麗」
オズルが手に取ったのは、卓上ランプでした。きらきらと輝いて、とても綺麗なランプだったのです。
「それが欲しいの?いいよ、買ってあげる。他に欲しいものはある?」
「えー待って!まだ全部見てないんだよう」
慌てるオズルにフロウもユリアも大笑い。オズルは笑われたことが気にくわないのか「なんで笑ってるのさ、もう!」と言っていましたが、二人につられて笑い出しました。
三人とも、本当に楽しそうです。
『やめて……僕、何もしてないのに……』
不意に、雑貨を見ていたオズルの動きが止まりました。
『ナイフだ!怖いよう……』
オズルはその場にうずくまります。過去の記憶が突然、オズルの頭の中を支配したのです。
オズルがうずくまった拍子に、何かが棚から落ちました。それを見て声を上げたのは、ユリアでした。
「それ……"記憶のペンダント"」
落ちていたのは、琥珀が銀の枠に入って輝いている、銀の鎖のペンダントでした。
フロウはため息を一つつくと指を鳴らしました。
そして——
「ユリア!なんで魔道具を店に並べるのよ?」
突然、フロウは"アンネ"を演じるのをやめてしまいました。しかし、ユリアはそんなことには動じません。
「ごめんなさい、フロウ。でもね、昨日このペンダントが光っていたから、誰かが必要としていると思って……つい」
「……分かったわよ。取り敢えず中に入れてくれる?今は誤認の魔法を使っているから誰もあたしの正体に気付かないようになっているし、あたしの声だって聞こえなくなっているし、この子は見えなくなっているけどね……そろそろ持たないわよ」
「分かったわ。少し待っていて」
ユリアは外に「休憩中」の札を立て、店の奥へと入っていきます。フロウは自分の過去に囚われているオズルを背負い、ユリアについていきました。




