表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/74

笑顔

「おはようございます!」

「おはよう、フローラさん!」

「アンネ、おはよう!」

「久しぶりね!元気してた?」

 フロウが一歩家を出て挨拶をするだけで、多くの人々がフロウに挨拶をしてきます。しかも、みんな笑顔で。

「おはよう、アンネ!その子が前に言ってた一人息子さん?」

「そう!ほら、ちゃんと挨拶してね」

「あの、初めまして。僕はフィリップ・フローラです」

「あら!礼儀正しくていい子ね!私はサリア・フルー。そこで花屋を営んでいるのよ。よろしくね!」

 オズルはフロウの演技力に舌を巻きながら、笑顔で差し伸べられたサリアの手を握りました。サリアの手は少し荒れていましたが、不思議と温かい手でした。

 初めてでした。オズルが人と握手をしたのは。


「ここは行きつけの薬草屋さんよ。素敵な名前だと思わない?私、ヘーメルオーストって名前、好きなの」

「僕も素敵な名前だと思う!」

 二人はヘーメルオーストの前に来ていました。

「さ、薬草を買いましょ。お店のナルさんにもちゃんと挨拶するのよ」

「はあい」

 二人は揃って店内へと入っていきました。その様子は本物の親子のようです。


「いらっしゃい、アンネ。あら?その子はだあれ?」

「こんにちはナルさん。この子は前々から言っていた、私の一人息子なの」

「初めまして。フィリップ・フローラです」

 ナルは興味津々、といった様子でオズルを見ています。

「あら、フィリップっていうの?可愛らしい子ね!私はナル・フィリアンカよ。ここで薬草屋を営んでいるの。よろしくね!」

 明るく元気なナルのことが気に入ったのか、そう言って快活そうに笑うナルに、オズルはにっこりと笑って言いました。

「よろしくお願いします」


「ところで今日は何を探しているのかしら?」

「前に買ったカモミールとタイムを。あと、今日のオススメは何ですか?」

「では……アメリカンジンセングなんていかがでしょう?ストレス対策、疲労回復の効果があるのよ。風邪予防にもいいし、解熱にも使えるわよ」

「いいわね!それ、くださいな」


 薬草を選ぶときのナルやフロウは、普段よりも生き生きとして見えます。その生き生きしているフロウにも、常に楽しそうで笑顔なナルにも、オズルは驚いていました。

(普段のフロウはこんな人じゃない。勿論優しい人だけど、こんなに明るく振る舞っているところを初めて見た。ナルさんもずっと笑顔だなんて。でも……僕の両親みたいな偽物の笑顔じゃない。本当に楽しくて笑ってるんだ)

 オズルは両親の、外で見せる偽物の笑顔を見ていました。ずっと、家という名の鳥籠から。

 だからでしょうか、オズルは人の表情を読み取るのがとても上手かったのです。自然と自分でも気付かないうちに、上手くなっていました。


「どのくらい?」

「五十スロンずつで」

「分かったわ。全部で……三十二ルーになるわよ」

 二人の会話で、オズルは我に返りました。そして、少しばかり暇だったので店内を見て回りました。

 二人はまだまだ話しています。

「スーになおすと、いくらでしたっけ?」

「二十スーよ」


 マディシナ村の近隣ではお金の単位に「スー」という単位が使われています。これは「ルー」を十進法で表す為の単位でもあり、「十ルー=六スー」が成り立つようになっています。

 マディシナ村には近隣の村の人々もよく買い物に来るので、スーも一応取り扱っています。ややこしい話ではありますが、フロウはルーとスーを混用していました。そうした方が「他の村から来た」という設定が真実味を帯びてくるからです。


「ねえお母さん、こっちに宝石があるよ!」

「ああ、そっちは私の夫が開いている宝石屋さん。ワップバーダっていうのよ。アンネ、今夫は外出中だけど欲しいものはある?店番を頼まれているから買っていけるわよ」

「そうね……サファイアをください。あっ、でも一番小さいのでいいんです。なるべく綺麗なのをお願いします」

「分かったわ。でも高くつくわよ。四千五百ルーになるけど……」

 気まずそうなナルの表情。しかし、フロウは気にしません。

「なんだかんだ言って、ちゃんとお金を貯めてるんです。スーになおすと……えっと……」

「……九百六十スーよ」

「あ、そうでしたね。実は、九百六十スーあるんです。頑張って、今まで貯めていたから……」

 フロウはそう言って、お金を取り出しました。

「あら、そうなの?でも生活はそこまで自由ではないでしょう?」

「ええ、まあ……」

 フロウが言葉を濁すとナルは笑顔で、

「しょうがないわね……なら今日は特別よ。薬草代はいらないわ」

 と、驚くべき言葉を発したのです。

「そんな!それだとナルさん……」

「いいのよ。こう見えて利益は割とあるんだから。このぐらいなら、ちゃーんと元は取れます」

 ナルは得意げにそう言って、九百六十スー以上のお金を受け取ろうとはしませんでした。

「本当にごめんなさいね。ありがとうございます!」

「気にしないで!またいらっしゃい」

 こうしてフロウとオズルは、薬草とサファイアを手にしてヘーメルオーストを出たのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ