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迷い、憧れて

 フロウとルイーザは、未だに部屋で考え込んでいました。

「——あたしはどうしたらいいのかねぇ」

『さあねえ。でもフロウ、私は間違っていると思うよ』

「あたしが?間違ってる?」

 フロウの問いに、ルイーザはうなづいて見せます。

「——どうして?どこが間違っているの?」

『根本的によ』

 即答でした。

「根本的に……」

『あのねえ。オズルのことを考えるのはいいことだと思うのよ。でもね、よく考えてみてよ。オズルの未来を決めるのはフロウじゃない。オズルだよ』

「!」

 フロウははっとしてルイーザを見ました。

「そうか。あたしの思いがどうであれ、最後に決めるのはオズル、あの子自身だ……」

 部屋の外から微かに扉の音がします。オズルとフィリーが家の中に戻ってきたのでしょう。

「……そうだな。今晩のご飯の時にでも少し、話してみるかな」

 フロウはもう、迷ってはいませんでした。


 一方その頃、オズルは。

「楽しかったね、フィリー!」

「にゃーお」

 フィリーと自室で話していました。

「新しいお友達もできたし、いろいろなことを教えてもらったね。こんなにたくさんの絵も描けたよ。また明日も、庭で遊びたいね!」

「にゃあ!」

 オズルはフィリーと話しながら、可能な限り、今日教えてもらったことを魔法紙に書いていきます。

 実のことを言うと、オズルはそれなりに読むことは出来るのですが、書くことは苦手です。ですが、魔法紙や笛の万年筆がオズルを助けたおかげで、なんとか全てのことをメモすることが出来たのです。

「オズル!フィリー!ご飯が出来たよ!」

「はぁい!今行く!」

「にゃー!」

 美味しそうな匂いと二人を呼ぶフロウの声に誘われて、二人は部屋の外へと出たのでした。


 その日の晩御飯は、美味しそうなシチューでした。猫たちの分も器によそわれています。

「わぁ、美味しそう!」

「じゃあ食べようか」

 フロウのその言葉で夕食の時間が始まります。

 オズルは新しい精霊の友達が出来たことや精霊に掟を教えてもらったことを話しました。そして、花の絵をたくさん描いたことも。

 フロウはいつも通り、そっけない返事ばかりをします。しかし、オズルはそんなことなど今更気にしません。話したいことはいつもぽんぽんと口から出てくるのでした。


 オズルの話題がなくなった頃、フロウがスプーンをカタリと置きました。

 ルイーザとフィリーはひげをピクリとさせ、耳をピンと立てました。オズルも何か空気が変わったのを感じ、食べるのをやめました。

 フロウの目線は、少し下を向いています。

「……どうしたの、フロウ?」

 オズルの問いに、フロウは顔を上げて言いました。オズルをまっすぐに見つめて。

「話したいことがある」


「オズル。お前は気付いてないだろうけど……お前には立派な魔法使いになれる才能がある」

「えっ⁉︎」

 オズルは目を丸くしました。フィリーまで驚いたのでしょうか、「にゃっ!」と鳴いて、オズルを見ています。

「ちゃんと魔法を勉強すれば、立派な魔法使いになれるよ。下手したら、あたしを超える魔法使いになれるだろうねえ」

「……」

 オズルは驚きすぎて、声が出ません。

「だからオズルが望むなら、あたしが魔法を教えてやってもいい」

「……ほ、本当に?」

「あたしが嘘をついたことがあるかね?」

「な、ないよ」

 オズルの声は、震えています。

「本当に……なれるんだね?」

 フロウは黙ってうなづいて見せます。


 実のことを言うと、オズルはずっと、フロウに憧れていたのです。

 フロウはいつも、夕食が終わると薬草やら何やらを取り出してきて、ご飯を食べていたその部屋で薬を作っては村に持っていっていたのです。それを皿を片付けながら見ていたオズルは、いつもフロウに憧れていたのです。魔法で誰かを助けられたらいいのにな、と。

 また、フロウが魔法で何もないところから何かを取り出したりするところもよく見ていました。その行為も、オズルにとって羨ましいものでした。そして、思うのです。

(僕もあんなことが、出来たらいいのに)


 その時、フロウが再び話しだしました。

「でも一つ言っておく。魔法使いになることは、決していいことばかりじゃない」

「!」

 その言葉を聞いた時、オズルは思い出したのです。決して何も悪いことなどしていないフロウが、「魔女だから」と言う理由だけで村人に疎まれていることに。そのせいでフロウは姿を変えなければ村には行けないことに。

(どうしようかな……)

 オズルは迷いました。

 ずっと憧れだった魔法使いになりたい。でもいいことばかりではない。

 そんなオズルの心情を見抜いたのか、フロウは言いました。

「今すぐに決めろとは言わない。ちゃんと考えて、自分で決めな」

「……うん、分かった」


 その日の夜。

 ベッドに入ったオズルは、フィリーに呟くようにして問いかけました。

「ねえ、僕……どうしたらいいと思う?」

「にゃーお」

 オズルには猫語なんて分かりません。でも、オズルにはその鳴き声が「自分で決めるべきだよ」と言っているように感じました。

「そうだよね。ちゃんと考えて決めなきゃ」

 そう言ってオズルはにこりと笑います。

「今日はもう寝よう。おやすみ、フィリー」

 そして、オズルは眠りについたのでした。

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