失くしたもの
フロウは溜息を吐きました。
「あの子に……オズルに魔法を勉強させたらきっと、上手に魔法を使いこなすだろうねえ。きっと、あたしよりも何倍も上手に」
『どうしてそう思うんだい』
ルイーザが不思議そうに問いました。
フロウは難しそうな顔をします。
「なんとなくだけど感じるんだよ。あの子は自分では気付いていないけど、とても強い魔力の持ち主だってね。ちゃんと魔法使いになれば、あの子はいい魔法の使い手になるよ」
あたしよりも凄い魔法使いに……と、フロウは呟くように付け足します。
「オズルが望むんなら……そうだね、あたしが魔法を教えてやってもいいと思うんだ。でもねえ……」
『オズルがそれを望むかどうか分からないとか?なら訊けばいいじゃない』
不思議そうなルイーザに、そうじゃないんだ、とフロウは首を振ります。
「あたしのようになってほしくないんだよ、あの子には……!」
実はフロウは、オズルのとても素直で純粋なところが気に入っていました。
素直に楽しい時は笑えて、怖い時や悲しい時には泣けて、怒りを感じたときには相手にちゃんと怒れるところが。
純粋に感情を露わにできて、純粋に相手のことを信じることができるところが。
フロウは難しい顔で言いました。
「——でもねえ、魔法使いになった後って、そう簡単に素直になれなくなるんだよ。相手を純粋に信じることができなくなる」
『たしかにそうねえ。今のフロウがちょうどそんな感じだよね』
「……痛いところをついてくるねえ」
しかめっ面をしたフロウに、ルイーザはいたずらっ子そうな表情で一言。
『私を誰だと思っているの?』
「……そうだよねえ、分かってるさ」
フロウは遠い目をしました。
「——そう、今のあたしは純粋に相手のことを信じられないんだ。素直にもなれない」
『フロウは怖いんだろう?オズルまであんたみたいになるんじゃないかって』
ルイーザの金と銀のオッドアイが、きらりと光りました。まるで、フロウの心の内を見透かすかのように。
「……やっぱりあんたには敵わない。あんたのいう通りだよ、ルイーザ。
——そう、あたしは怖いんだよ」
フロウはふっと笑いました。少し、自嘲気味に。
「あの時、私が魔女だからって理由だけで疑いをかけられて、仲が良かった人間たちがみんな、あたしを毛嫌いするようになってから……あの時から、あたしは純粋になにかを信じることができなくなった。信じても裏切られるだけだと、あたしは知った」
『……あれはフロウは悪くないよ。自然現象のせいでしかない』
「そんなのは今更言ってもしょうがないわよ。だけど……あたしはあの日、魔女だというだけで信頼を失った。素直な心も純粋な心も失った。あの日のことは、忘れることができない」
暗い顔で俯いてしまったフロウに向かって、ルイーザが呟く。
『そうよね。分かってるわ。だからフロウは人間嫌いになったのよね……』




