素質
ぱたり、と扉を閉めると扉にかかった「フロウ・アイーネ ルイーザ・アイーネ」と書かれたプレートがことりと音を立てて揺れました。
部屋の中に入り、一つ溜息をついたフロウは、ベットに座り込み、考えごとを始めました。
(オズルには、魔法使いの素質がある)
そう。
それは、オズルが精霊の存在を理解できると判明した日からずっと、フロウが考えていたことでした。
(人間に精霊が見えて会話が出来るって時点で不思議っていうか……おかしいんだ。そんなことなんて、魔法使いの素質がある者以外、あり得ないはず)
精霊の存在が理解できると判明した後、それがまぐれではないことを確かめるため、そしてオズルに魔道具が使えるかどうかを確認するため、フロウはオズルに魔道具の"魔法紙"を渡しました。筆記用具であり魔道具でもある"笛の万年筆"と共に。
もし使いこなせるなら——魔法使いの素質があれば、"魔法紙"に自分の名前を書くと、言葉の精霊を呼び出せるとされています(呼び出そうと思えば、友の契約を結んでいなくとも、魔法で精霊を呼び出せるのです。但し、その魔法の殆どが精霊を強制的に呼び出すものとなるので、あまり好まれてはいませんが)。
もし魔法紙に名前を書かなかったとしても、魔法使いの素質がある者が使えば、何かしらの反応が紙に現れるともされています。
"魔法紙"……それは、簡単な魔法を使うときに使う魔道具でした。あの時なら精霊を呼び出す魔法です。
(あの紙を使って呼び出すなら……大した魔力もいらない。その分強制力もあまりない。でも、筆記用具があたしのあげた"笛の万年筆"ならねえ。多少は力添えをしてくれる。それでも大したものじゃないが)
"笛の万年筆"とは、なにかを書いている時に使おうとした魔法を助ける力を持つ万年筆です。なので"魔法紙"と相性が良いとされています。ただ、こちらもあまり魔力は強くありませんが。
(——それにしても、オズルはあれを使いこなしてみせたんだよねえ)
そう。オズルはそうして言葉の精霊を呼び出し、精霊と"友の契約"を結んだのです。自分が精霊を呼び出したのだとも知らずに。
そしてフロウは、留守番を頼んでいたときのことを思い出します。
(——あたしが出かけている間、オズルは言葉の精霊を、自らの意思で呼び出した)
フィリーが散らかしてしまった部屋をなんとか元に戻すため、オズルは言葉の精霊の名を呼んだのです。そして、言葉の精霊はオズルの願いに応え、魔法を使ったのです。しかも、フロウの使い魔であるルイーザまで巻き込んで。
(あれはオズルの言葉——願いを魔力に転換した魔法だ。それなりにオズルの持つ魔力が強くなければ、魔法使いの素質がなければ、あんなことはできない)
精霊が起こした風は、魔力で満ち溢れているような、そんな風だったとフロウはあの映像から感じ取っていました。そして、言葉の精霊のあの言葉——。
——それにオズル自身も割と強い魔法の力を持っているみたいだから、やりやすかったしね——
『なあに、また考え事?』
いつの間に部屋に入ったのか、ルイーザがフロウの目の前に現れました。
「ああ、ルイーザ。——ねえ、この間オズルが言葉の精霊を呼び出した時……ルイーザも精霊の魔法に巻き込まれてたわよね?」
『そうね。まあ私からも協力するとは言ったけど』
「……どんな感じだったかい」
『精霊自体の力はそこまで強くないだろうと読んでいたんだけどねえ、いざ巻き込まれるってなるとすごい力だったわ。そしてね……明らかに精霊のものではなさそうな力も感じたわね。まさかとは思うけどあの力は……オズルのものじゃないわよね?』
そう言いながらも、ルイーザにはその問いの答えが分かっていました。そしてフロウも、ルイーザと同じ結論に至っていたのです。




