掟破り
「——私、そろそろあの村に帰らないと……」
フロウは頃合いを見計らって、そう近所の人に言いました。手には今日買った野菜や薬草もあります。勿論、サリアにもらった千ルーも大事に持っています。
「ああ、そうだったね。気を付けて行きなよ。また早く戻っておいで」
近所の人はそう優しくフロウに言ってくれます。
「ありがとうございます。次に来るときは、息子も連れてきますから」
フロウはそう言って笑いました。
そして、家路につこうとしたその時でした。
「——その道を行くのかい?」
フロウが怪訝そうに答えます。
「ええ、いつもそうですけど……」
さっきまでにこにこしていた近所の人が、難しい顔をして言いました。
「そう言えばそうだったね……。なら分かっているとは思うけど……その道の先には悪い魔女が住んでいる家があってね。フロウ・アイーネっていう奴だ」
「フロウ・アイーネ……」
呟くように、フロウは自分の名を繰り返します。
「そう。その家は避けて通りなよ。もしあいつに見つかったら、何が起こるか分からないからね。特にアンネみたいないい人は、もしかしたら騙されて連れていかれちゃうかもしれないからさ。最近あいつが女の人を攫ったらしいって噂もあるし。気をつけるに越したことはないさ」
「……ありがとうございます、気をつけますね」
苦笑しながらフロウは心の中で、
(——女の人って、誰だよ。あたしが誰かを攫うなんてしたことないのに、根も葉もない噂を流してさ。それに人間は噂を簡単に信じるからねえ。たとえそれに根拠が何もないとしても。だから人間って奴は……)
一人、ぼやいていました。
(もし"フロウ"と"アンネ"が同一人物だと分かったら、人間はどちらが本当のあたしだと思うんだろうねえ。人間のことだから、そんなの考える前にあたしを殺しそうな気もするけど)
家への道を急ぎます。
森の中に入った後に空中に魔法陣を描き、家の前へと瞬間移動しました。姿を変える魔法を解き、
「ただいま」
扉を開けて中に入った瞬間、その場で固まっているオズルの姿が目に入りました。そして——。
「フロウ、ごめんなさい!」
オズルが急に頭を下げました。「おかえりなさい」の言葉もなしに。
オズルの隣にいたフィリーが俯いているように——謝っているように見えるのは、気のせいでしょうか。
オズルの目には、うっすらと、涙が。
「——どうしたんだい?」
何が起こったのかいまいち掴めないフロウは怪訝そうに問いかけます。
オズルは泣きそうな声で言いました。
「僕たち……フロウとの約束を、破っちゃったんだ」




