薬草屋 ヘーメルオースト
カランコロン。
フロウが押したのは、薬草屋「ヘーメルオースト」の扉でした。フロウの行きつけのお店です。
「あらいらっしゃい、アンネ。いつもうちに来てくれてありがとう」
そう言ってフロウを出迎えたのは、ヘーメルオーストの女店主、ナル・フィリアンカでした。
フロウはナルに一つの籠を渡します。その籠の中には、家で作っていた風邪薬が。
「こんにちは。これ、いつもの風邪薬です。もしよかったら、村の皆さんにお渡ししてください」
「いつも薬まで持ってきてくれてありがとうね、アンネ。アンネのおかげでみんな元気よ」
「いえいえ。ところでナルさん、今日のオススメの薬草ってあったりしますか?」
「今日のオススメはこれね。これを干してハーブティーにして飲むと、夜ぐっすり眠れるわよ」
ナルが出してきたのは、カモミールでした。
「これにはね、リラックスさせてくれる効能があるの。他にも体を温めてくれる効果もあるから寝る前にはぴったり。風邪でもないのにくしゃみが出る人は、カモミールティーから出てくる湯気を吸い込むと、くしゃみが出にくくなるわ。カモミールは湿布にもなるし、入浴剤にもなるからオススメよ」
優しく効能を教えてくれるナルに、フロウはにっこりと笑いかけて言いました。
「ありがとう、ナルさん。じゃあ、カモミールをください。あと、タイムはありますか?エキナセアもほしいんだけど……」
「ええ、あるわ」
フロウは正直、舌を巻いていました。
(ヘーメルオーストはいつ来ても在庫が豊富でびっくりするよ。女店主のナルも薬草の知識がすごい。いつでもオススメの薬草を出してくれるし、その薬草の解説も完璧。魔女のあたしにも劣らないぐらいだ。本当に人間なのかねえ。人間なのは分かっているけど)
しかしナルは、フロウがそんな事を考えていることには気付きません。いや、目の前にいるのがフロウであることにすら気付いていないのですが。
「どのぐらい要るかしら?」
ナルに問われ、フロウは我に返ります。
「そうですね、五十スロンずつください」
フロウは何事もなかったかのように答えました。勿論、普段の口調ではなく"アンネ"の口調でです。
ちなみに「スロン」というのは、マディシナ村やその周辺で用いられている重さの単位です。こちらも何故か、マディシナ村だけでは「六進法」が用いられています。
「どれも五十スロンずつね。分かったわ。ちょっと待ってて。今から量るから……」
ナルは天秤を取り出し、薬草を量りだします。
「おお、アンネさん。こんにちは。ナルが重さを量っている間にこっちも見ていきませんか?」
そう言いながらそこに現れたのは、ヘーメルオーストの中の一角にある宝石屋「ワップバーダ」の店主を務めるナルの夫、トーヤ・フィリアンカでした。丁度今、裏にある家から出てきたところのようです。
「ええ、是非。残念ながら今日は宝石を買うだけのお金は持ち合わせていないのですが……」
「いいえ、見ていただけるだけでも十分ですよ。一番楽しそうにここの売り場を見てくれるのが、アンネさんなんですから」
「あら、嬉しいです。トーヤさんにそんなことを言っていただけて」
フロウがそう言うと、トーヤは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頭を掻きました。
フロウはナルや彼女のの店、ヘーメルオーストだけではなく、トーヤや彼の店、ワップバーダもすごいと思っていました。
(スペースは狭いからあんまり在庫は多くない。でも必要ならばどんなに遠くにある宝石でも取り寄せてくれる。宝石の知識も豊富で客対応がすごい。それに宝石の質も高いからねえ)
なのでフロウはいつも、夢中になって宝石を見てしまうのでした。
「アンネ、薬草を量り終えたわよ!」
「ありがとうございます、ナルさん。代金はおいくらですか?」
「四十ルーよ」
フロウは四十ルーを払って、ヘーメルオーストを出ました。
「ありがとう、ナルさん!」
「こちらこそ、アンネ。また来てね!」




