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オズルとフロウの魔法使い日記  作者: 秋本そら
留守の家・仮の家
12/74

アンネ・フローラ

 フロウは一瞬でマディシナ村の中にある小さな家に移動していました。

「さてと。このままじゃ外には出られないねえ」

 フロウはそう呟くなりぱちんと指を鳴らし、魔法で姿を変えてしまいました。

 黒く長い髪は色はそのままでしたが、長さが短くなりました。美しい湖のような青だった眼は、黒くなっています。卵型だった輪郭は丸くなり、つり目だった目は垂れ目になっています。白い肌も少し黄色っぽくなったでしょうか。

 服装もさっきまで着ていた紫色のワンピースではなく、桜色のワンピースに黄緑色の肩掛けをかけるという、いたって普通の姿に早変わり。

 さらに、声も変わっていました。少し低めだった声は、少し高めの明るい声に変わっています。

「よし。あとはあたしが喋り方を変えるだけ」

 フロウは目を閉じ咳払いをして、小声で自分に語りかけるように言いました。

「——フロウ・アイーネは消え失せた。

 私は今からアンネ・フローラだ」


 フロウは扉を開いて、笑顔で村人に話しかけました。

「おはようございます!」

「あらフローラさん、おはよう」

「おはよう、アンネ!」

 村人も相手がフロウだと気付くこともなく、笑顔で答えます。


 マディシナ村では、フロウは「アンネ・フローラ」と名乗っていました。そして、アンネ・フローラは少し遠くの村で夫と息子と暮らしていた女性で、夫が暴力を振るい始めたので別れることを決意、マディシナ村に住もうかと思っているが夫との話し合いが進まず、まだ定住は出来ていない——そんな人物だということにしていました。定住していないのなら、ある日突然現れても、しばらく村人に見られていなくても「あ、今前の村からここにきたのだな」「あ、前の村に行って夫との話し合いをしているのだな」と思われるだろうと考えたからです。


「フローラさん、夫との話し合いは進みました?」

「はい、おかげさまで。まだ時間はかかりそうですが……息子は私が引き取ることに決まりました。今度来るときに連れてきますね」

「あら、よかったですね!フローラさんの息子さんなら、きっと優しい素敵な方ですね」

「ありがとうございます」

「今日はどちらへ?」

「市場に。あの村にはない食べ物や薬草もここにはありますから」

 ここの市場、本当に好きなんですよ、と弾けるような笑顔でフロウは言いました。

 快活で明るい"アンネ"をみて、誰が彼女をフロウだと思うでしょうか?


「いらっしゃい、アンネ!

 そうそう、いつものやつ入ってるよ!しかも、とびきり新鮮なのがね。どう?買ってく?」

 市場に着くと、早速八百屋のアル・サードルが大声で呼びかけてきます。アルは美味しそうなほうれん草を手にしています。

「あら、美味しそう!でもお高くない?いつもなら一束十二ルーなのに今日は一束十四ルー?」

 マディシナ村のお金の単位は「ルー」でした。何故かマディシナ村は、村独自の数え方である「六進法」を用いています。

「いやあ、取引先を変えたから少し高くなっちゃってねえ。まあ、前よりも質は上がってるけどね。どうする、アンネ?」

「じゃあね、こうしましょうよ」

 フロウはいたずらっ子ぽく笑います。

「もし私が一度に三束以上買ったなら、前の値段で売って頂戴な。二束以下だったら今の値段でもいいよ」

「うーん……三束以上買うときには、今の値段のこれ、キャベツを一玉でいい、一緒に買ってくれればほうれん草は前の値段でいいよ」

「ほうれん草を三束前の値段で、キャベツを一玉今の値段で買えばいいんだね?

 ……よし、乗った!ほうれん草三束とキャベツ一玉、頂戴!」

「はいよ!まいどあり!」


 八百屋を出たフロウは、今日の一番お目当てのお店へと向かいました。

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