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風の拾い話

 その日のお昼ご飯の時でした。

 突然オズルが言いました。

「フロウさん、僕、言葉の精霊さんと友達になったんです!」

「だから敬語は使うなと言っているはずだ!

 ……まあ、でもよかったな」

 フロウはそう言いながらも驚き、そして確信していました。

(オズルは……精霊のことが見える。そして、言葉も聞き取れる。

 それにしても……)

 フロウはとても驚いたのです。()()()()()()()()()()()()()()()

(精霊と"友の契約"を結ぶなんて……!)


 "友の契約"とは、精霊と名前を教えあって友達になることを言います。

 しかし、精霊は簡単にその名を教えたりはしません。何故なら、名を教えられた人はその精霊のことを呼び出せる、つまりある意味その人はその精霊を支配できることになるからです(もちろん"友の契約"なので精霊とその人は友達であり、対等な立場ではあるのですが)。


 食後、フロウは部屋にこもっていました。

「ルイーザ、ちょっと」

『なあに、そんなに難しい顔して』

「ちょっと庭に行って、勿忘草を取ってきて。あたしは……ここで少し頭の中を整理したいの」

『フロウがそんなことを言うなんてよっぽどのことだね。分かった。二輪あればいい?』

「ああ、頼んだ」

 ルイーザが部屋から出て行くと、フロウは溜息をつきました。

「オズル……眼の色が緑色だった時点でただの子供じゃないとは思ったけど……」

 困ったような笑顔でフロウは呟きます。

「やっぱり、ただの子供じゃなかったんだな」


『フロウ、これでいいかい?』

「ああ、ありがとね」

 フロウはルイーザから勿忘草を受け取り、そのうち一輪をその黒髪に飾りました。

 そしてフロウは窓を開け放ち、はっきりとした声で、歌うように言いました。

「勿忘草の友よ、友の声に気付いておくれ。

 そして来てくれないか、友の元へ。

 私は貴方を忘れはしない。

 だから貴方も覚えていて」

 その声を聞いた風が、ざわざわと騒ぎました。

 フロウは一際大きな声で、その名を呼びました。

 "友の契約"を結んでいる、精霊の名を。

「ウィル・ソーヤ」


『やあ、フロウ・アイーネ。久し振りだね。僕の分の勿忘草もあるかい?』

 やって来たのは、半透明の水色の光——風の精霊でした。

「勿論よ。はい」

 フロウが勿忘草を差し出すと、不意に風の精霊——ウィルはぼんやりと水色の光を放つ青年に姿を変え、勿忘草を受け取ってその薄い水色の髪に飾りました。そしてフロウのベッドに腰掛けます。

『ありがとう。で、どうしたんだい?』

「貴方の"風の拾い話"を聞かせて欲しくてね。あんまり大きな声じゃ話せないけど——」

 フロウは話しました。

 緑色の眼をした人間の少年——オズルを拾ったこと。

 その子は人間のはずなのに精霊の存在が分かること。

 そして、言葉の精霊と"友の契約"を結んだらしいことを。

「——どう思う?そんな話を聞いたことはある?」


『——そうだね。黒や茶色の眼ではない人間は不思議な力を持っていることが多い、なんて話はよく聞く話だ。例外も多いから大してあてにはならないけどね』

「ええ。それはあたしも知ってるわ」

『そうだよね。でも多分……オズルと言ったっけ、その子は何かしら不思議な力を持っていそうだよね。それこそ、精霊の存在が分かる能力とか。だって隣の部屋から何かを感じるもの。オズルって子、今隣の部屋にいるんでしょ?』

「ええ、そうよ」

『何か、普通の人間なら持っていないものを感じるよ。ちょっとそれが何なのかは分からないけど』

「……じゃあ、やっぱりあの子はただの人間じゃないってことね?」

『そうだね。精霊と"友の契約"を結んでいるあたりもただの人間じゃなさそうだし』

「そうなのよね……しかも()()()()()()()()()()()()()()っていうのがねぇ」


 ——二人がそう言うのも無理はありません。何故なら言葉の精霊は滅多に相手を信用しないからです。

『うん。言葉の精霊は、どうしても言葉に支配されてしまう部分があるからなあ。言葉に支配され、力を与えてしまう。だから嘘偽りのない言葉を使う人にしか名前を教えないはず』

「そうね。嘘の言葉にも力を与えてしまうから、嘘をつかない人しか信用しない……なのに、一度しか会っていないオズルに名を教えた」


 その後、しばらく二人は黙りこくったままでした。

 しかし、不意にウィルが思い出したように言いました。

『ああ、他の精霊から聞いた"風の拾い話"だけど、言葉の精霊は"友の契約"を結ぶ相手が最初から決まっているらしい、って言う話を聞いたことがあるな。

 もし"友の契約"を結びたがった相手が決められた者でなければ信用するまで名を教えないが、相手が決められた者だったら初めて会った相手でも名を教えるらしい、とね』

 フロウはそれを聞いて驚きました。

「へえ、それは知らなかった。

 なら、もしかしたらオズルがその決められた者だったかもしれない……ってことだね」

『そうなるね。お役に立てたかな?』

「ああ、とっても。ありがとう。

 ……でも不思議だね。人間が決められた者だったなんて。だって普通、人間は精霊の存在を知らないからね」

『そうだね。でもこれ以上は僕も分からない。申し訳ない』

「いや、ウィルがそんなことを言う必要はないよ。すごく助かったさ」

 フロウがそう言うと、ウィルは嬉しそうに笑いました。

『ありがとう。申し訳ないけど、そろそろ旅に出る時間だ』

「そうかい。ありがとね」


 フロウは風の精霊と別れる時の、約束の言葉を口にします。

「またいつか会う日まで私のことを覚えていて。

 私も貴方のことを覚えておくから。

 勿忘草の花言葉に誓って」

『私は貴方のことを覚えていよう。

 勿忘草を飾って待っていておくれ。

 その花が私を導いてくれるように』

 ウィルも約束の言葉を口にして、元の姿に戻って窓の外へと消えていきました。

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