出会い ➁
「失礼します。ここって桜山市研究部の部室ですか?」
スライドして開いたドアから、一人の女子生徒が教室へと入って来た。
一度頭を小さく下げてから口を開いた彼女は小柄、というか身長はかなり低く、背まで届く長い黒髪を流している。小さな顔に対して大きな瞳を持つ彼女は、教室の中を見渡してから、奥に座っていた俺たちを見つけた。
「今は研究会だけどね。何か用?」
俺と違って他人に抵抗の無い快は、イスに座ったまま笑顔でその子に返事をする。
「あっ、入部希望なんですけど……ん? 入部? 入会……?」
研究会と言われた彼女は、入部か入会かで迷っていたがそんなことはどうでもいい。
今、入部希望と言ったか?
右手に紙を持っているが、あれが入部届だとでも言うのか。
「ダメです……か?」
返事をしない俺たちに不安になったのか、心配そうな顔でその子が訊き返す。
「いやいやいや! 信じられなくてびっくりしただけで、ようこそだよ」
「おい、入れるのか?」
慌てて快がそう答えるので、快に耳打ちをする。俺としては新入部員なんていらないし、ましてや女子とはなるべくなら関わりたくない。
しかし俺が嫌がっているとわかっているにもかかわらず、快は笑いながらまたこう言う。
「ソータの気持ちもわかるよ。けどね、先輩たちが辞めて今は二人。さっき言いそびれたけど、同好会だって最低三人はいないといけないんだよ?」
「……本当に?」
「うん。本当に」
どうやら俺が嫌な顔をすればするほどにやけるこいつは、面白がってはいれど、嘘はついていないようだった。
俺は視線を快のにやついた顔から、扉の前にいる女子へと移す。
「とりあえずこっちおいでよ」
快が手招きをすると、彼女はこっちまで来て、快の横の席に座る。そして手に持っていた紙を快へと渡し、快はそれを読み上げる。やはり入部届だったようだ。
「かみやまゆきちゃんでいいのかな?」
「はい!」
「オッケー。じゃあ有希ちゃんね!」
快は読み終わるとその紙を俺に渡す。仕方なく受け取り、一応ざっと目を通す。
神山有希。一年A組。
「僕は戸島快。そんでこっちは遠津木颯太。ソータが部長で、僕が副部長。どっちも二年だよ」
「一年の神山有希です。よろしくお願いします!」
「ちょっと待て。部長は俺なのか?」
頭を深々と下げるその子、神山を横目に快へと問い詰める。
「あれ、この前ちゃんと聞いたじゃないか」
しかしこいつは、こんなとぼけたことを言う。何を言ってるんだい当たり前じゃないか、みたいな顔で見られても俺には心当たりがない。
「いつだ?」
「本を読んでる時さ。うんうんて言ってたよ」
本を読んでいた時……覚えているような覚えてないような。しかし思い出せないということは、きっとこいつは俺がから返事しかしない時を狙って言いやがったに違いない。その証拠にまたもやこいつはにやにやしている。
こいつにこれ以上の反論は無駄だと諦め、溜息をつく。
「――じゃあ、それ職員室に出してきて」
俺が初めて話しかけたのに驚いたのか、神山はびくっと体を震わせた。何かしらを感じ取ったのか、それとも何か知っているのかはわからないが、怯えているようにも見える。
「顧問の先生がいるはずだから、それ渡してきて」
「は、はい!」
神山は逃げるように、いやそれは考えすぎかもしれないが、入って来た時よりは速足で教室を出て行った。
「はああああ」
神山がいなくなるのを見届けると、また大きな溜息をつく。
快が窓の外を見ているので俺もなんとなく外を見る。グラウンドで練習しているサッカー部員や、その周りを陸上部の生徒が走っている。
「女の子は嫌だったかい?」
外を見たまま、快がそう呟く。
「まあ……仕方ないだろ」
短く返事をし、窓を開ける。
――俺は女子が苦手だ。本来なら神山の入部は断固拒否するところだ。しかし廃部になるかもしれないと言われてしまえば、断るわけにもいかない。
こうして、俺と快、そして神山有希を加えた三人で、廃部の危機を逃れた桜山市研究会の活動は始まった。
俺はもうひとつ溜息をつこうとしたが、代わりに外の空気を大きく吸い深呼吸をする。鼻を通り肺に流れ込んでくる春の風は、肌で触れるより冷たく感じた。
ここまできていただきありがとうございます。
颯太は女の子が苦手なんですね。なんででしょうか。
テンポが悪いかなーと不安になりつつも進めております。