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出会い ①

 これで何回目だろうか。


 高校生活が再開した四月の初め。辺りに生えている木々にはピンク色の花がすでに咲きほこり、肌をでる風は少し暖かい。


 校門から、部活が休みなのであろう生徒たちが下校していくのが見える。


 今日はこの前買った新しい本を読もうと思っていたのだが、俺はなぜこんな所にいるのだろうか。早く部室に戻って読み始めたい。


 たしかこの市は桜が有名だったな――

 ふと、風に吹かれ舞うピンク色の花びらを見てそんなことを思い出す。


 校門から少し離れた駐輪場。

 目の前には初めて見る女子生徒。


「それで、あ、あの、ダメですか?」


 そう言って彼女は頭を下げる。


 ダメ?

 彼女のつむじを見ながら頭をかく。


 ……何て言われたんだっけ。少しばかり自分の記憶を探ってみるが、残念ながら何ひとつとして候補に挙がらない。訊き返すわけにもいかないので、仕方なく自分の経験から発する言葉を推測する。


「あー、ごめんね。そういうの興味なくて」


 そう伝えると、俺の答えは彼女の問いに合っていたようで、彼女は「わかりました」と言って走り去って行った。なびく黒髪を見送る。


 まったく、誰かも知らない子に呼び出されてここまで来てあげたのにお礼もなしか……まあ、元々お礼なんて期待していないけれど、それでも女子への印象はさらに悪くなる。


 はぁ、と溜息をついて、ゆっくりと校舎に向かって歩き出す。



 俺が所属している部の部屋は、本校舎の四階に位置する。三階にある教室から向かえば近いものの、校舎の外にある駐輪場から向かうとそれなりに遠く感じる。


 グラウンドに面する裏口から校舎に入り、階段を一段一段ゆっくりと上がる。四階に着き左に進めば、目指していた外語特別教室はおのずと見えてくる。


 すでに鍵の開いているドアをスライドさせ開けると、中では一人の男がイスに座り携帯電話をいじっている。


 ここは、外国語授業の時にしか使われていない教室だ。他と比べて少し空間は狭いが、机やイスは一般教室と同じように並んでいて、そしてその男は教室の中央に陣取っていた。


「やぁ、ソータ。また告白されたのかい?」


 そういてくるこいつは、戸島とじまかい。こいつとは小学校から一緒で、少し茶色がかった短髪に、いつもにやにやとしている顔がトレードマークになる。現在、部員メンバーは俺と快のみである。


「たぶんな」


 快の問いに投げやりに答えると、教室の窓際の一番後ろの席に腰を下ろす。


「たぶんなって、なんて言われたの? ってかなんで近くに来てくれないのさ」


 快は自分のカバンを持って俺の前の席に移動してくる。


「よく聞いてなかった」


「相変わらずだねぇ、ソータは」


 呆れたような顔をする快を無視し、カバンから読みたかった本を取り出し、開く。


 ――相変わらずだねと言われてもね。


 さっきの女子とは初対面で、もちろん会話をしたこともなかった。果たして、初めて話す人にいきなり告白されて嬉しい人などいるのだろうか。少なくとも、俺は嬉しくない。好きって言ったって何を好きなのか。話したことのない人から得られる情報なんて、顔、髪型、身長、そんなものだろう。


 そして、そんなものを好きになられても全く嬉しくないことは確かだ。


 まだ太陽が照らす教室で、本を読みながら快にそんな感じのことを伝えると、それに対して少し寂しそうな顔をしてから、またもやにやっと笑う。


「それは確かに嬉しくないね。けれどソータは人と関わろうとしないんだから、相手がソータのことを知らなくても当たり前だよね」


 それはなかなかどうして、快のくせに正鵠せいこくを射ていた。


 こいつの言う通り、俺は人と関わるのをなるべく避けている。しかし、別に人を完全に拒絶しているわけではない。現にこうして快の話に付き合っているし、話しかけられれば最低限の受け答えはする。


「でも今僕は嬉しいよ。だってソータに彼女が出来ちゃったら寂しくなるもの」


「――お前にはあいつがいるだろ」


 満面の笑みでそう話す快に素っ気なく返すと、「どうかな」と言ってまた携帯電話をいじりだす。校則では授業中以外の携帯電話の使用は禁止されていないので、放課後である今は使用可能な時間だ。


「そういえばさ、部活はやらないのかい?」


 快は目線を携帯電話の画面から俺の顔へと戻し、問う。


「部活? 今やってるじゃないか」


 快は首を横に振る。


「違うよ。本を読むことが目的じゃないだろ、この桜山市研究会は」


「ああ、そういやそうだったな」


 よくよく考えてみれば、いや忘れていたわけではないが、俺が所属している部は元桜山市研究部、先輩たちが卒業した今は、桜山市研究会と呼ばれている。そしてこの部の活動内容はおそらく読書ではない。


 この学校、桜山高校は、全校生徒約千人ほどの規模であり、県内でも上位の進学校である。


 土地の中には大きな建物は三(むね)建っている。まず、正門から入って正面に本校舎、左手に体育館、そして右手には本校舎と渡り廊下で繋がっている別館と、そのそばに駐輪場がある。校舎の向こう側にはグラウンドやテニスコートがあり、そばには部室棟が並んでいる。


 桜山高校は「文武両道」をうたっている学校で、規則の一つに、生徒は必ず少なくとも一つの部活に入らなくてはならない、という項目がある。


 同好会も一つの部として扱われ、この桜山市研究会もその一つであるが、俺は二年目の高校生活が始まってから三日間、ただただ本を読んでいるだけだったので、いきなり部活動をやれと言われてもパッとやることを思い出せない。


 仕方なく頭をひねって考える。この部の活動内容はたしか――


「なんだったっけ?」


 去年もずっと本を読んで過ごしていた俺は全く活動内容を知らなかった。


「簡単に言えば、この桜山高校のある桜山市について、自分たちが気になったことを調べるんだよ」


「それは……楽しいのか?」


 率直な質問を返す。


「どうだろうね。僕は先輩たちがやっているのを手伝うのはそれなりに楽しかったけど、ソータが楽しく感じるかはわからないね」


 そう言って、俺の顔をうかがってから話を続ける。


「でも先輩たちがいなくなったから、僕たちがちゃんとやらないといけないと思うんだよね」


 ……はっきり言ってめんどくさい。


 俺がこの部活に入った理由は、校舎の中で最も人が来なそうな位置に部室があり、静かに過ごせると思ったからだ。特に桜山市について知りたいこともないし、調べようという気も起きない。


「まあ毎日何かやらなければいけないわけじゃないけれど、とりあえず部員は確保しなきゃね」


「部員? なぜだ?」


 その快の言葉に驚き、俺は持っていた本を閉じて机に置く。


 俺が嫌そうな顔をしたのに気付き、快は笑っている。


 この面白がっている快に言葉の真偽を問おうとして口を開いたその時、誰かがドアをノックする音が聞こえた。


初めまして。

ここまで見ていただきありがとうございます。

こうやって小説を書くのは初めてなので、少しでもおお?と思っていただけたら幸いです。


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