表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

猫カフェ・シャドミラージュ

猫カフェ・シャドミラージュ2~奇妙なお客さん~

作者: 猫山つつじ

 ここは、猫カフェ・シャドミラージュ。おとぎの国のパティスリーみたいな、かわいくておしゃれな猫カフェです。


 私は、猫スタッフのユキといいます。ご存じの方もいらっしゃいますよね。

 純白のオッドアイで、週末の少しの時間だけ、外部からのスタッフとしてここにいます。

 今日も、お気に入りのスイーツタワー型のキャットタワーの上でごろごろしているところです。


 仲良しだった三毛のハナちゃんは、お客さんに気に入られて引き取られて行っちゃったけど、今日は新入りのサビ柄のオハギちゃんと友達になりました。

 オハギちゃんはまだ子供だけど、会ってすぐに鼻と鼻であいさつもできたし、とってもいい子なんです。


 オハギちゃんといっしょにごろごろしていたら、いつもどおりに食事タイムとなりました。

 人間のスタッフさんがカリカリをスイーツタワーにたくさん置いて大騒ぎになってしまったので、カリカリが好きじゃない私は、ミルフィーユ柄のソファーに座っている黒い服を来た小柄な女の人の横に移動しました。


 女の人の前の床にもカリカリが置かれてあって、猫たちが何匹か来ています。それ自体は普通の光景なのですが、何を思ったか、その女の人は素早く手をのばすと、カリカリを一つつかんで美味しそうに食べ始めました。

 わたしがあっけにとられている目の前でさらに一つ、また一つと、五、六個ぐらい食べていたと思います。

 それからその女の人はトイレに行きました。戻ってきたとき口の回りがびしょ濡れだったので、どうやら水を飲んできたようです。

 女の人はとなりにいる私を気にかける様子もなく、あくびをひとつすると、大きくのびをして、それから漫画を読み始めました。

 私は女の人の膝に乗ってみました。普通のお客さんなら大喜びしてくれるのですが、喜ぶでもなく、かといって嫌がるわけでもありません。ときどき耳の後ろを掻きむしったりしながら、黙々と漫画を読み続けていました。

 やがて帰りの時間が来たのか、女の人はカウンターで支払いを始めました。

 

 猫カフェに来たにも関わらず猫に興味もなさそうだったし、変なお客さんだなと思ったのですが、ふと私は、奇妙な予感にとらわれました。

 私はカフェの窓から出口の方をじっと観察することにしました。

 黒い服の女の人はなかなか出てきません。

 しばらくして、一匹の黒猫がドアのあたりから走り去るのが見えました。


 私は帰りがけにカフェのスタッフの人に尋ねました。

「さっきの黒い服の女の人は、猫なんですか?」

「さあ……。いずれにしても、ほかのお客様の個人情報は一切お答えできないことになっております」 


 人間の私が猫になるためにこのカフェに来るように、人間になるためにここに来る猫もいるのでしょうか。

 猫が人間になりたがるなんて、そんなメルヘンみたいな話は、考えづらいと思います。それでも、そのような変わった猫が百パーセントいないとは言い切れないし……、考えれば考えるほど良くわからなくなってきました。

 人間である私自身が猫スタッフとしてこのカフェにいるのだから、少なくとも、このカフェに人間と猫の境界を越えられる何らかの力があることは間違いありません。

 だから、私の場合とは逆に、猫が人間になってもおかしくないとは言えるのでしょうし、そう思うしかないのだろうと思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ