ハロウイン企画 トリック・オア・トリート -1-
「トリック・オア・トリ−ト!」
10月の半ばの日曜日、遼くんと手を繋いで
大きなショッピングタウンの前を通ると
突然、小さな男の子が目の前にやって来た。
ん・・・?
トリック・オア・トリ−ト?
不思議に思いながら周りを見てみると
ほとんどの人がオレンジと黒の色使いの衣装、
魔女やオバケの仮装をしていた。
どうやらハロウィンのイベントみたいだ。
そういえば、目の前にいるこの男の子も黒いマントと、
とんがり帽子をかぶっている。
「トリック・オア・トリ−ト!」
男の子はもう一度そう言うとにんまり笑った。
“トリック・オア・トリ−ト”
“お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ。”って意味だよね?
私はバッグの中から飴を出して男の子の小さな掌に乗せてあげた。
「はい、これで許してくれるかな?」
「うんっ!ありがとう。」
男の子は嬉しそうに言うと、トコトコと走って行った。
「璃桜、あそこでイベントやってるよ?」
背の高い遼くんは私より遠くの物がよく見える。
遼くんが指差した方に目を向けると
ショッピングタウンの前の広場に特設ステージが設置してあって、
たくさんの人だかりができていた。
「なんか、おもしろうだから寄っていこうか。」
「うんっ。」
特設ステージの方に近づくと、そこでは『魔女コンテスト』をやっていた。
要するにミスコンのハロウィン版。
ちょうど結果発表をしているところだった。
『魔女コンテスト』だけあって、みんな魔女の格好をしている。
ステージ前の客席には若い男性ばかり。
「・・・そして、“ミス・魔女”に輝いたのは・・・っ!」
司会者の声とともにスポットライトが出場者全員を照らし、
「エントリーナンバー15番、秋川遥さんっ!」と、
一人の女の子の姿を映し出した。
「あ・・・っ!あの子・・・」
遼くんはその女の子に見覚えがあるのか、
驚いた顔で指を差した。
「・・・?遼くん、知ってる子?」
「いや、知らない子だけど。璃桜、憶えてない?」
「?」
「ほらっ、あの子、花火大会の『浴衣コンテスト』で
“ミス・浴衣”になった子じゃないか?」
花火大会って、遼くんと付き合い始めた日に行った、
あの花火大会の事?
確かにあの時もミスコンをやっていた。
「髪をアップにしててさ、黄色い帯と同じ色の花の髪飾り付けてて
紺色の浴衣着てた子。
その時も“ミス・浴衣”に選ばれてたじゃん。」
「・・・あーっ。」
遼くんにそう言われて私はじっとその女の子を見た後、
ようやく思い出した。
「すごい・・・このコンテストもミスに選ばれたんだ。」
「もしかして“ミスコン荒らし”なのかな?」
「あはは、どうかな?」
「でも、あんだけ可愛かったらどのミスコンに出ても
優勝しちゃうよなー?
しかもモデル体形だし、何着ても似合いそうだし。」
遼くん・・・鼻の下伸びてる・・・。
「あーゆー子がタイプなんだ?」
「え・・・いや、別にそーゆーワケじゃ・・・。」
「どうりで花火大会のミスコンの事もよく憶えてるワケだ?」
「り、璃桜?」
「どーせ、私はあんなに可愛くないし、スタイルだってよくないもん。」
私がプイッと顔を背けると、ステージの上でものすごいフラッシュを
浴びている“ミス・魔女”が視界に入ってきた。
“ミス・魔女”の証、ファーがついた黒いマントと王冠の代わりに
魔女の象徴の一つでもある杖を持ってにこにこしている。
「遼くんも写メ撮ってくれば?待受にできるし。」
「もうっ、何言ってんだよ。撮るワケないじゃん。」
「だって、鼻の下伸びてるよ?」
「伸びてない。」
「伸びてるもん。」
「伸びてねぇし。つーか、別にタイプじゃないけど?」
「じゃあ、なんであの子の事、あんなに憶えてたの?」
私が顔を覗き込むと、遼くんは「ぅ・・・。」と声を詰まらせた。
ほら、やっぱりタイプなんじゃないの。
すると、遼くんはジーンズの後ろのポケットから携帯を出した。
ホントに写メ撮りに行く気なんだ・・・。




