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~蛇田山~ 4

 多賀国府を出て、膽澤鎮守府へ向かう陸奥守源頼義の一行は、まだ日の高いうちに到着した此治城に入ると、一泊することとなった。


 一旦旅装をといたのち、再び騎乗するため身支度を整えた頼義は、義家ら息子たちとともに、営岡たむろがおか屯岡八幡宮たむろがおかはちまんぐうへ向かった。


 頼義は、陸奥国に着任するとすぐに、前国守藤原登任と安倍頼時の会戦が行われた、この営岡の八幡宮の社殿を修繕するように指示を出していた。


 もともと、京の鳩ヶはとがみね男山おとこやま)に鎮座する、石清水八幡宮いわしみずはちまんぐうは、源氏の氏神であり、頼義は陸奥へ下向する前にこの社へ詣でていた。


 したがって、この田村麻呂公が創建した屯岡八幡宮についても、いくさで荒廃したままにしておくわけにはいかなかったのである。


 頼義らが、八幡宮に到着すると、すでに社殿の修繕は完了しており、荘厳さを増した威容が目の前に静かに佇んでいた。


 神前に並んだ親子は、揃って柏手を打ち、拝礼した。


「すぐにまた、もう一度、此処へは参らねばならぬな。」

 下げていた頭をあげると、頼義がひとこと呟いた。

 その呟きを聞いた義家は、ハッとして父の背中を見つめるのだった。



 頼義たちが、此治城を留守にしていた頃、説貞が経清と永衡を自分のへやへ招いていた。


「お二方ともお疲れのところ申し訳ない。さ、こちらへ。」

 説貞は、経清らを自分の前へ誘った。

 

 二人が説貞に相対して座すると、説貞の左右には光貞、元貞の兄弟が座していた。


「権守殿、改まって我らを招かれたは、何か不都合でもございましたか?」

 まずは小さく一礼すると、経清が、呼ばれたときから抱いていた疑問を投げかける。


「儂はなにぶん不調法ゆえ、自分でも知らず知らずのうちに、なんぞ粗相でもいたしましたでしょうか?」

 こちらも一礼したのち、永衡が、大きな目玉を見開いて問いかける。


「いやいや、そうではございませぬ。前の国守様が、あのような次第になられ、今の国守様が赴任されるまでの間、また今日に至るまで、不慣れな私を支えて頂いたお二人に、是非ともいつか御礼がいたしたく考えておりましたが、とうとうその機会が訪れたという訳です。」

 何ごとがあったのかと、少々警戒気味の二人の様子に、困惑した体で笑顔で手を振って、説貞は答えた。


「左様ですか。ですが、我らは何も輔けになるようなことは出来なかったとは思うのですが・・・。」

「まことに。」

 今度は、経清らが困惑顔となった。


「恩を受けたわたくし自身が言うのですから、間違いはないのです。・・そこで、お二方にはこれを差し上げたい。」

 説貞は、多少強引に話を進め、傍らの元貞に目配せした。


 合図に頷いた元貞は、背後から二つの包を取り出した。

 布に包まれたそれは、一抱え以上もある大きなもので、その存在感に経清らは呆気にとられている。


「・・これは?」

 経清が、説貞の顔を見て尋ねる。


「開けてみてくだされ。」

 笑みとともに説貞が応える。


 二人が同時に布を解くと、灯火の光を反射して燦めく物が現れた。

「「こ、これは!」」

 思わず息を呑む。


「当家に出入りしている業師に、特別に作らせたものです。」

 光貞が、慇懃さを出して言った。


 包から出てきたのは、銀色に輝く兜であった。

 黒漆に赤い紐をあしらい、全体に白銀しらがねで飾られたきらびやかな意匠の一品である。


「このような高価な物を頂くわけには・・・。」

 経清は、一層困惑さを深めた顔をした。


「かような綺羅びやかなものは、田舎者には分不相応と・・・。」

 永衡も口ごもる。


「武で聞こえる安倍頼時殿の婿となられたお二人にこそ、相応しいというもの。是非とも受け取っていただきたい。」

 説貞は、そう言って頭を下げた。


「ことに、永衡殿ほどの偉丈夫が、これをお召になって騎乗すれば、さぞやお似合いになること請け合いでございます。」

 光貞も、いつにない笑顔で口添えした。


「さ、左様であるかな?・・うむう・・・。」

 いつもは冷静沈着な様しか見せない光貞に、褒められた永衡は、満更でもない表情を一瞬閃かせた。


 一方、経清は相変わらず難しい顔をしている。

「分かりました。権守様のせっかくのご好意、無下にするのは礼に失します。有難く頂戴いたします。」

 そう言って、永衡を即して共に平伏するのであった。


ーーーーーー。


「上手くゆくだろうか?」

「少なくとも、伊具郡司は何とかなるであろう。」

「それにしても、曰理権太夫の奴は一筋縄ではいかぬようだな。」

「その時は、その時だ。」

「なるべくなら、二人一度に始末したいが・・・。」

「きっかけになれば良いのです。」

 経清たちが室を去った後、親子三人での密談が続いた。


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