5話-教室の端で愛を叫ぶ-
更新遅れてごめんよう。
「その後は君がこの家に入ってきて今に至るって感じだね」
「なるほど…」
俺は間の抜けた感じでそう返答した。
話が奇々怪界過ぎて考えがよくまとまらない。
目の前で首がふっとんだ?骨が飛んできた?いくら柔軟性に定評がある俺でもそう易々とそんな事は信じられない。
「歩くん、明日君はここに来られるかい?」
「え?はい、大丈夫ですけど。」
「ならこの話はまた明日にしよう。君の家族も心配しているだろうし。」
そう言われ壁にかけてある時計を見ると十時を回っていた。
これは帰ったら完璧に歌音に怒られるな…。
「そうですね、じゃあ今日は帰ります。」
言いながら応急処置のために使ったガーゼなどを棚に戻し帰る支度をする。
「あぁ、気をつけて帰るんだよ。昨日この家の家族を殺害した犯人が警官に撃たれたらしいし」
「そうなんですか、そんな事があったとは…じゃあ大通り周って帰りますね」
「うん!それが良い、じゃあまた明日ね」
俺は「はい!」と好青年スマイルをしてこの家から出た。
さて、歌音になんて言い訳するか考えとくか……。
俺は重い足を動かし我が家へと歩を進めた。
× × ×
「た、ただいまー」
俺はできるだけ小声で挨拶をしながら家に入った。
十一時だし歌音も寝ているだろうから起こしては悪いと思ってだ、歌音に見つからずに自室へ辿り着きたいという訳では決してない。
「お兄ちゃん…遅かったね」
背後から聴こえた凍りつくような冷たい声に思わず体が震える。
「よ、よぅ歌音…まだ起きてたんだな」
「うん、起きてた」
「そ…そうか。今日は学校どうだった?た、楽しかったか?」
「ふつう」
「そうか、普通か…ま、まぁ普通が1番だよな!良かっ――」
「お兄ちゃんはなんでこそこそしながら帰ってきたの?」
俺の発言は歌音の怒りのこもった鋭い声によって遮られた。
「それは、な…お前を起こさないためにだよ…」
「ふーん…で、お兄ちゃんはなんでお父さんとお母さんに挨拶もせずに自分の部屋行こうとしてんの?」
「そ、それはお前を起こさないためにだよ…うん」
歌音の瞳から放たれる眼光に耐え切れず、俺は顔を逸らす。嘘をついたことへの罪の意識からではない、マジで怖いんだもん。
「へー、じゃあお兄ちゃんはなんでそんな怯えた顔してんの?」
「それはお前を起こさないた――」
「それは無理がありすぎだろがああぁ!!」
「ぐごふぉ!?」
ドゴッという音と共に俺の腹にコークスクリューブローが打ち込まれる。嬢ちゃん…いいパンチ、持ってるじゃねえか。
「もー!お兄ちゃん超遅いんですけど!すぐ帰ってくると思って湯切りしないで置いといたペヤソグ超伸びちゃってるんですけど!!
ちゃんと食べてくれるんでよすね!?もし食べたくないとか言ったらペヤソグ食わせるから!!」
「げほっげほっ……お、落ち着け歌音…言ってる事が支離滅裂だ」
「落ち着け?一日二回しかない家族で一緒にご飯を食べるっていうのをすっぽかされたんだよ?それでもお兄ちゃんは私に落ち着けっていうの?」
歌音は指をパキパキ鳴らしながらそう訴えてくる。落ち着くどころかむしろ高まってきているようだ。
だが歌音の言う事は正しい、約束をすっぽかしたのは俺だし怒られて当然というものか…。
「確かにその通りだ。落ち着く必要はないな、もう好きなだけ殴ってくれ歌音。俺はお前の意見全てに肯定してやる」
俺は両手を上げて降参の意を表した。これはもう負け戦だ、せめてこれ以上相手を怒らせない事が得策だろう
「はぁ…まぁそんな態度取られると逆に殴りづらいしもういいよ」
そう言って歌音は拳を納めテーブルの方へと歩いて定位置の席へと着いた。
「お兄ちゃんも早く座って、もう私我慢できないお腹ペコペコ〜」
テーブルの方に目をやると麺がすっかり伸びたペヤソグが二つ置いてあった。
「歌音、お前先に食べてたんじゃないのか?」
「食べないよ。だって晩御飯は家族一緒に、でしょ?」
そう笑顔で言う歌音を見て、罪悪感が俺の胸を強く締め付ける。
「歌音……ほんとごめん…。」
「いいっていいって、ラーメン風ペヤソグっていうのも食べてみたかったしさ。ほらお兄ちゃん早く食べようよ!」
そう言い歌音は先に席に着いて「はやくー」と俺を急かした。
席に着き、二人で「いただきます」を言うと歌音がすぐにラーメン風ペヤソグに食らいついた。
「おーいけるいける商品化できるよこれ!その時は発案者私だからお金私に入んのかな?それともやっぱまるか食品に取られんのかな?」
歌音はとても美味しそうに食べるのを見て俺も一口食べてみる。
冷めているし麺は伸びているしで明らかにいつものペヤソグより劣っていたが、歌音がとても美味そうに食べているせいだろう、そう悪い味ではなかった――
× × ×
「ねぇねぇ歩くん、昨日《立ち入り禁止》ってテープ張ってある家に入ってたでしょ。」
昼休み、席替えにより佐藤くんに代わり俺の隣の席になった彩音が声をかけてきた。
「え〜歩わかんな〜い、歩昨日はお家でゲームしてたしぃ、違うと思う〜。」
「何その喋り方、ちょっと引くんだけど…。」
そう言いながら彩音は椅子と共に教室のはじの壁まで下がった。
ちょっとと言うか、かなり引いてるじゃん彩音さん…
「彩音ー!戻ってきてくれー俺が悪かったー!!あれはただの遊びだったんだよー!!」
俺の窓際の席から彩音の今いる場所はかなり距離があり、自然と話す声は大きくなってしまった。
「やだよー!私もう歩くんの所には戻らないからねー!!」
彩音は手を口に当て、俺と同じぐらいの声量で返答してきた。
「お願いだー!もうあんなことしないからさー!許してくれー!」
「……お前達は一体何をやってるんだ、教室中に聞こえてるぞ」
顔に手をあてやれやれといった感じで委員長が黒板消しを持ちながら俺たちの方へと歩いてきた。どうやら日直で黒板を消してた途中らしい。
彩音は「エヘヘ、ごめんごめん」と言って椅子と共に長い髪を揺らしながら戻ってきて俺と膝がつきそうなところで止まった。
「それは流石に近すぎるんじゃないか?」
委員長が怪訝そうな顔で彩音の方を見る。
「いやいや、私達いつもこんなもんだから」
「ふむ、そうなのか。なら別にいいんだ」
委員長は彩音の言う事に頷くと「あまり騒ぐなよ」と言って俺達から離れまた黒板の方へ戻っていった。
「委員長も行ったし少し離れろ、流石に近い」
「えーいいじゃん別にぃ、いやなの?」
そう言いながら彩音は俺に顔をグイグイと近づいて、心拍数が上がる。こういう事は優宇で慣れていると思ったがそんなことはなかったようだ。
「で、俺が家に侵入した話を聞きたいんじゃなかったのか」
彩音は俺から顔を離すと「あ、やっぱ歩くんだったんだ」とポンッと手を叩いた。
「入ってみた感想を是非私にお聞かせ願えないでしょうか」
「感想って言ってもなぁ…あの家にはガーゼが三つ、未開封の消毒液が四つ、他には絆創膏、包帯が二つずつ置いてあって、あーこの家族は救急用品大好きなんだなぁって思ったぐらいだな」
「なにそれ…もっとなんかないの?」
「他、か…骨は案外刺さると痛いっぽいから気をつけろ、とか?」
彩音が俺の感想にうなだれたのと同時にガラガラと教室の扉を開け優宇が入ってきた。
「あゆむー遅いよ。せっかく歩が食べたいって言ってたサムゲタン買ったのに冷めちゃうよ」
そういえば寝る前に優宇にそんな事を頼んでいたな。すっかり忘れていた。
俺は立ち上がり優宇と食堂に行こうとすると、ぐいっと後ろから袖を引っ張られ止められた。振り返ってみると彩音がエヘヘと笑っていた。
「あのさ、今日お弁当忘れちゃって…サムゲタン私にも分けてくれない?」
「まぁ一人で食べ切るには少し量多いし別にいいけど」
それを聞いて彩音はやったーと言いながら飛び跳ねた。その拍子に彩音の胸がたゆんと揺れる。
今まで気づかなかったがこいつもしかしたら大物かもしれない――
「よし、じゃあ行くか……ぐぇ」
食堂に向かおうとすると今度は後ろから襟を引っ張られた。
本日二度目の妨害に若干イラつきながら振り向くと、そこには頬を赤く染め、モジモジとしている珍しい委員長の姿があった。
「どうした?今回は何も迷惑かけてないと思うが」
「あ、あの私も弁当を忘れてしまって…良ければ、少し…お前のサムゲタンを分けてもらえないだろうか」
お前もかよ……
×××
学校が終わり優宇と別れた後、俺は例の火事物件へと向かった。
目的の場所に着くと、彩音がいないか入念に確認した後、裏の隙間から「おじゃまします」と言い、中へ入った。
とても律儀な不法侵入者である――
「こんにちは続さん」
「お!来たね、歩くん」
リビングでは続さんが昨日と同じ様に床に敷いてあるシーツの上で横になっていた。
「続さんって今日ずっとその体勢だったんですか?」
「あぁ、足を動かす事が少し難しくて立ち上がる事が出来なくてね、昨日と変わらずずっとこの体勢だよ。まぁでも一日中寝るだけっていう日も楽しいものだね。ハマりそうだよこの生活、ずっとここにいたいな〜」
続さんは夢見心地な様子でそう語る。
ずっとここで寝ていたいってすごいなこの人、ここ周りに血痕付きまくってる超ワケあり物件なんですけど…。というかココ他人の家だしずっと居ちゃダメだろ!
と俺が続さんの図太さに感心していると、ギュルルルと続さんの腹が鳴った。
「そういえばそこから動けなかったんですもんね。良かったらこれ食べますか?」
言いながら俺は鞄の中からタッパーを取り出した。
「おー!これはサムゲタンじゃないかい!僕これ好物なんだよ、本当に食べてしまってもいいのかい?」
「余り物なんで遠慮せず全部食べちゃっていいですよ」
俺がそう言うと続さんは「歩くん天使すぎる」と言いながら俺が昨日看護してあげた時よりも遥かに喜びの表情に満ち溢れていた。
優宇達と食堂に向かった後、流石に三人で一つじゃ足りないだろうと思い追加でもう一つサムゲタンを頼んだのだが、思った以上に二人は小食で大量にサムゲタンが余ってしまい委員長が常に持ち歩いているというタッパーに残りを入れて持ち帰ったのだが、まさかこんな所で役に立つとは、備えあれば憂いなしってやつだな。
×××
「そういえばその右目って見えないんですか?」
続さんがサムゲタンを食べ終わったのを見計らって、昨日から気になっていたことを聞いてみた。
続さんの右目の所には縦に伸びた傷があり、ずっと右目を閉じたままなのだがあまりそれを不自由だとは感じていない様子で、むしろそれが当たり前の様な感じだったので少し気になっていた。
「あぁこれのことか……これは僕が小学生の頃に父親に顔を酒瓶で殴られてねぇ、その時刺さった破片が右目の神経を傷つけちゃったらしくてそれからずっと見えないんだよ」
続さんは右目の傷痕を指でなぞりながら俺にそう言った。
「そうなんですか……」
「まぁでももう昔のことだしさ、父親とは今は上手くやってるし全然大丈夫だよ。それに『隻眼の続』なんてカッコいいあだ名も友達から貰えたし悪いことばかりじゃないよ」
続さんは笑みを浮かべながら明るいトーンでそう言った。きっと場を明るくしようと努めてそうしてくれたのだろう。
そういう気遣いをしてくれる続さんに俺は尊敬の様なものを感じた。
「そういえば歩く――」
続さんの声はピロリロリロというスマホのアラームによって遮られた。このアラームは六時になったら鳴る様に俺が掛けておいたものだ。
「続さん、申し訳ないんですが俺今日はもう帰りますね」
「何か用事があるのかい?」
「用事というか、帰りが遅いと妹がうるさいんで…」
俺がそう言うと続さんは「それなら早く帰ったほうが良いね」と笑った。
「歩くん、良ければ明日またサムゲタン持ってきてくれないかい?」
どうやら続さんはあのサムゲタンが相当気に入った様だ。まぁ美味いしな、うちの学校のサムゲタン。
「わかりました。じゃあ明日また持ってきますね」
俺は続さんからの熱い感謝の言葉を背中に受けながらこの家をあとにした。
『お前のサムゲタン』ってなんかエロくないですか?赤く火照ったって前に入ってれば完璧でしたね。
作品に関係ない超私事なんですけど、前回pt入れて下さった方がいてですね、文章評価2ptだったんですけど今までは0ptだった訳だしとても嬉しかったんですよ。
で、この人から3ptもらえる文章を目指そうと思って、参考用に5年ぶりくらいにラノベ買ったんですけどラノベって高いですね。一冊616円しました。
1000円あれば足りるべと思って『俺ガイル』と『落第騎士』の2冊をレジに持ってたんですけど見事に足りませんでした。で落第騎士はその時諦めて俺ガイルだけ買って読んでたんですけど面白いですねこれ。ハマっちゃって何回も読み直してたら更新遅れました(言い訳)
まぁ今週は頑張ってあらすじの所までは終わらせますね多分maybe